「有機農業には勇気が必要でした」 富良野市 今利一さん

広大な大地、どこまでも青い空、広がる草地…。
そんな豊かなイメージのある北海道ですが、現実は、一年のうち半年しか農業ができない厳しい土地。
5月中旬から10月下旬までの短い間、農民は農作業に追われます。

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富良野と言えばドラマ「北の国から」。この番組の有機農業の指導もしたことがあるという今さん。
有機農業への思いはだれにも負けません。


そんな北海道で約25年前から有機農業に取り組んでいる、今利一さん。
有機農業を始めるきっかけになったのは、アスパラガスの栽培でした。

「アスパラガスって、一番面倒なのが除草なんだよね。だから一般的には除草剤を散布する。
今はどうか知らないけど、当時は収穫前日まで除草剤をまいてよかった。
それを出荷するでしょう。出荷しながらね、これ、人が食べるんだなあ…こんなことしていいんだろうか。
これではダメだなあ。そう思ったんだよね」

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この傾斜地から見えている山の中の土地は全部今さんのもの。
大型機械が入りづらいため作業には倍以上の手間がかかり、ときには命に関わることも。


今でこそ、「有機農業推進法」が施行され、有機農業は国の政策であることが認識され、
一般的にも認知されている有機農業ですが、当時はそうではありませんでした。
有機農業などと言おうものなら、地域からは村八分にされ、異端児扱いされることもしばしば。

今さんも例外ではありませんでした。

「有機やってると人の迷惑になるからとか、迷惑だからつぶしてやるとか、まあ、
いろんなことを言われました。近隣の農家が廃業するとき借金の肩代わりで土地の購入をするんだけど、
山の中とか傾斜地とか買わされるわけ。有機だから虫が出て迷惑だからとかで」

そば畑2
傾斜地に栽培されているそばはほぼ放任栽培。
雨が降って流れた水のあとがそのまま残るようなやせた土では、なかなかいい作物はできない。


ほとんどがそういう条件の悪い土地…機械は入りづらく、雨で土は流される…
そんな今さんの畑は、今50ヘクタールあります。
有機質肥料を入れても入れても追いつかないので、現在、半分は緑肥を入れて休ませています。

北海道の農業は、本州の農業と違い、大規模集約型。
ほとんどの農家が即効性のある化学肥料を使っています。
そんななか、あくまでも有機農業に取り組む今さんの思いは、どこからくるのでしょう。

「農業の役割って何だと思う? 食糧の生産だよね。
食べものを作ることだよね。だから安心できるものを作りたい。

農薬や、化学肥料を使う農業はダメだと思う。
有機質を土に返して作物を作る…これは有史以来ヒトがやってきたことでしょう。
薬を使う農業は正しくないと思うんだよね」

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片側100mの畑の草をもくもくと除草する今さんのスタッフ。
淡い緑の部分がまだ除草できていないところ。
除草剤をまくのが前提の北海道の農業で、こんな手間をかける人はそんなにいない。


化学肥料を入れれば、農薬を使えば、それなりの収穫量が見込めることがわかっていても、
(なにしろ以前、富良野で一番の収量を上げた経験もあるんです!)
小さい玉ねぎやじゃがいもができて、収入が減ってしまっても、
自分の信念を貫く今さん。

「有機農業は哲学であり、思想なんですよ」と笑います。

「少しぐらい借金があっても、作物が全滅しても、
俺、今まで自分の思うとおりにやってきたんだもの。
そういうの苦労じゃないと思うよ」

そろそろ玉ねぎやじゃがいもの準備に取り掛かる今さんの畑。
今年はどんな年になるのでしょう。全滅しないことだけを祈っています。

今さんのとうもろこしを食べてみたいと言う人はぜひ拍手を!↓

「農」のある暮らし 茨城県 さちこさん(2009年新規就農)

「自分の食べるものを自分で作る、身の周りに“農業”のある暮らしがしたいとずっと思っていたんです。
そういう生活が、あたりまえのような、そんな風に思っていました」

収穫2
野菜セット用のトウ立ち菜を収穫。ていねいに素早く。

さちこさんは、北海道の大学を卒業後、有機野菜の宅配会社で約5年間勤務し、
その後「農業」の世界に飛び込んだ、いわゆる「新規就農者」です。
現在5反の畑を借りて、野菜づくりに取り組んでいます。

東京出身のさちこさんが茨城県で農業を始めるには、どのような経緯があったのでしょうか。

「仕事で関わりがあった土地で、何度か通っているうちにここで農業をしようと思いました。
通っているうちに、相談に乗ってくれる方も現れたりして。
もともと地域が新規就農者を積極的に受け入れているという場所で、
話をするのにはそんなに困りませんでした」

写真

有機農業に力を入れて、JAが積極的に新規就農者を受け入れている茨城県。
農家研修の期間中にも一定程度の助成金が出て、新規就農者にとっては働きやすく、
また、定住しやすい土地柄でもあります。

しかし単身者であるさちこさんはその制度は使えませんでした。

現在いろいろな野菜をセットにして顧客に送る「野菜セット」と、直売所への出荷、
週2~3回のアルバイトとで生計を立てています。

目指しているのは「有機農業」。

「同じく新規就農者で、有機農業を営んでいる方が近くにいらっしゃるので、
少しずついろんなことを教わっています。
先日は育苗ハウスの骨組みづくりも手伝ってもらいました。
その後友人と張ったビニールは、大風ではがされちゃいましたけど…」

ハウス
きれいに張ったばかりの育苗ハウス…この後ビニールがはがされて悲しいことに。
落ち葉2
昔ながらの育苗床「踏床温床」用の落ち葉。この落ち葉を積み込み発酵熱を利用して育苗を行う。
電力などの燃料を使わないエコな技術。

画像 057
育苗床からようやく出てきた野菜の芽。この後定植という作業が待っている。


種をまき、芽が出ても、風で回されたり、飛ばされたり。
初めての経験ばかりのなかで粛々と農業に取り組み、
起こること全てを楽しんでいる風にも見えます。

「まだこちらに来て季節が一巡していないので、毎日が手探りです。
3歩進んで、2歩下がる・・・ たまには3歩4歩下がることもありますが、
授業料だと思って前向きに捕らえています。

なにしろ、しかるべきところでの勉強をすっ飛ばして飛び込んでしまったので、
ある程度の失敗は、どんとこいと言った覚悟です。
といいながらも内心はびびりまくり、動揺の連続ですが……
 
それでも、毎日が楽しいです。

買ってきた種の袋を切って、手のひらに転がり出る種の形が楽しみだったり、
双葉や本葉の形がいとおしかったり、
慣れてしまえばなんてことないんでしょうけれど、
毎日が本当に新鮮であっという間です」


のんびりと農業を営んでいるようですが、やはり元理数系。

土壌や堆肥の分析を行うなど、科学的なアプローチは怠りません。
去年の冬は、作物の味と生育をよくするというボカシ肥づくりにも取り組みました。

ボカシ
手作りのボカシ肥。毎日2週間移植ゴテでちまちまとよくまぜ発酵させた手間のたまもの。

これからのさちこさんの農業が、どのように進化していくのか。
今後も少しずつご紹介していこうと思っています。

さちこさんの農産物を食べたい!という方はぜひ拍手を!

テーマ : オーガニックライフ
ジャンル : グルメ

自然農法を営む人  甘楽町 吉田恭一さん

nanohana

上信越自動車道を見下ろす高台の一角に、吉田さんの畑はあります。
約1ヘクタールのなだらかな起伏のその畑には今、春の草花が咲き乱れています。

きちんと管理された農場が多いなか、一か所だけ草が咲き乱れ、
昆虫などの小さな生きものの世界が広がるその風景。
ある種の癒し効果もあるのか、見ているとどんどん心が軽やかになっていきました。

ミツバチ

吉田さんは堆肥などの有機質肥料をできるだけ少なくし、
自然のものだけで作物を栽培する「自然農法」の実践者。

自然農法は、必要以上のものを土に入れずに
緑肥などの自然なものの力で農産物を生み出す、昨今話題の農法。
最近注目を浴びているようですが、以前からそういう思想はありました。

一般的に自然農法を実践するには相当の勇気が必要です。
少ない肥料では収量も少なくなり、当然それらの作物で得られる収入も少なくなります。
収入が少なければ農家経営は立ちいかない…しかし、吉田さんは言います。

「おひさまと自然の恵みで得られるものだけでいいんだよ。
私の仕事は食糧を生産する尊い仕事。でも今の農民は、
作物を換金する手段だと考えている人が多いね。
食べものがそういうものになってはいけないと思うんだよね」

宮内菜
宮内菜と下仁田ネギの混植。
自然農法ではこういった混植により作物を健康に育てるという技術がある。
宮内菜は収穫後は畑にすきこみ緑肥に。


農業が消費者の視点を持たなくなって久しい昨今、
そういった志のある農業者が今の日本にどれぐらいいるのか。

「海外に競争力のあるものを」「経費削減で大量生産を」
企業の農業参入も相次ぎ、今では農産物は工業製品の一部になっているような印象も受けます。

「人間は食べなくちゃ生きていけないからね。食べるものは本当に大切だし、
自分たちの作るものは、人さまの命を作るものでしょう。
そういう思いでいれば農薬なんかはまけないと思うんだけどなあ」

吉田さん
飄々としているようで信念は固い吉田恭一さん

農業の目的は食糧の生産。
安心して食べられるものを作るのは、農民の役割と吉田さんは言います。

吉田さんと自然農法との出会いは、スキーでした。

スキーのインストラクターの資格も持つ吉田さんは、スキー学校で自然農法に詳しい先輩と出会います。
最初は興味はなかったのですが、その方のいろいろな話を聞いているうちに関心を持つようになり、
40歳のころ、シンプルで環境に負荷をかけない自然農法に取り組むようになりました。

「いろいろなものを土に入れれば作物は大きくなるし、収量もあがるけど、
もっとシンプルな方法がないかと思ったんだよ。
農薬をまかないのもシンプル。自然なものだけで作るのもシンプルでしょう。
たくさんは採れなくとも、自然の恵みをもらえるだけ、腹八分目と考えればいいんだよ」

hearibetti
肥料を入れないのでチッソ分は緑肥で。
マメ科作物のヘアリーベッチの窒素供給量は高い。
しかしこの畑はヘアリーベッチに宮内菜が負けてしまいました…


吉田さんは約10年前、有機JAS認証を取得しました。
有機JAS認証では、決められた農薬を散布することができますが、
吉田さんの畑では農薬は一切使用していません。
基本は無農薬栽培。その信念は徹底しています。

その畑で採れる野菜は、たくさんではないけれど、野菜それぞれが本来の自分の味を主張しています。
生命力の強い野菜…そんな印象のある吉田さんの野菜の人気は高く、
東京の一流レストランでも使われています。

「私はたまたま土地も多くあるし、甘楽町の土はわりあいといい土でね。
条件としては恵まれているから、自然農法ができる。
収入のことなど考えると誰にでもできるものじゃないと思う。たまたま私にできているだけ」

春の日射しでいっぱいの畑の土の中では、これから新たな命を生み出すための準備が始まっています。


手島奈緒

テーマ : オーガニックライフ
ジャンル : グルメ

プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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