種を採る人たち 自家採種は楽し

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青首大根の花。これから種を採っても親と同じ性質は獲得できません。

古来から農民は、畑でできた作物の種を採って翌年の作物を栽培してきました。
種を購入するようになったのは、本当に最近のこと。

それまでは、その年性質の良かったものを選抜し、種を採ってきたのです。

昨今ではF1種という、優良な性質が一代しか続かない種が農業の世界を席巻しています。
これは性質のよい親同士をかけあわせ、その優良な性質が出るように作られたもの。
中学の時に習ったメンデルの法則を思い出してください。

代表的なF1種が青首大根。

姿形のそろいがよく、同じ日に種をまけばほぼ同時期に収穫でき、
作りやすく、抜きやすいという素晴らしい性質を持っています。
同時期に出荷できればその畑は一気に片付きます。

その後すぐに他の作物を作れるというメリットがあることも青首大根が席巻する理由のひとつ。
現在の日本では、ほとんどの農民が青首大根を栽培しています。

さてさて。
そんななか、自分の畑で種を採り続けている人たちがいます。

自家採種を続けていると、その畑にあった性質を獲得するとも言われています。
長年自家採種をしているうちに、一定程度の食味を獲得するとも言われています。

ネギ坊主
もうじき種が採れるかな。春先のネギ畑はネギ坊主がいっぱい。
でも種を採る人はごくわずか…めんどくさいですからね。


自家採種しやすいものの代表選手がネギ。
春先に出てくるネギ坊主の中の種が熟すまで畑に置いておきます。
種が熟すまで畑が使えませんから、小面積の農民はなかなかできないかもしれません。
手間暇かかる種採りは、ある程度の覚悟が必要です。

埼玉県の瀬山明さんの畑では、毎年ネギの種を採種しています。

もともとは深谷ネギだったこのネギですが、長い間自家採種した結果
「瀬山ネギ」あるいは「本庄ネギ」と言いたくなるようなものに変化しています。

瀬山さんとネギ
種を採るために畑のすみっこに一列だけネギを残しています。
ネギ坊主を採ったあとは、育苗ハウスで乾かしてから、種を採ります。


甘くて、加熱調理をしても、生で食べてもおいしいこのネギ、
一度食べると、他のネギは食べられなくなります。

瀬山さんの畑の微生物の働きか、ボカシ肥料の手柄か。
おそらくそれらの影響もあるのでしょうが、自家採種することによってネギが獲得した性質も相まって、
他人には絶対に作れないネギに変化しているのです。

瀬山さんの畑では、最近ニンジンも自家採種するようになりました。
有機の畑で栽培されるニンジンの甘さ・香り・おいしさは、
ニンジン嫌いの子供でも「おいしい!」というほどの味になるものです。

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めったに見かけないニンジンの花。意外と繊細で美しいですね。
でも畑に長いこと置いておかないと種は採れない…なかなかできないことなんですよね。


その中でも、瀬山さんのニンジンのおいしさはダントツ。

時折出荷できないニンジンで作ったジャムをいただくことがありますが、
全くお砂糖を入れていないのにあま~くて香りもよくて、
これが本当にニンジンジャム?と思わず叫んでしまうほど。

購入すれば簡単な種。

手間暇かけて自家採種する楽しみは、経費削減という意味合いもありますが、
どんどん自分の畑にあった性質を獲得することと、食味が上がってくることにもありそうです。

さて、中には自分で新品種を交配する人もいます。

甘楽町の吉田恭一さんは、在来品種である「赤ネギ」と、下仁田ネギをかけあわせ、
赤い下仁田ネギを作ろうとしています。
今のところは赤ネギの性質、真っ赤な色合いが固定せず、てんでんばらばらな色あいで、
固定種になり得ていません。

赤ネギ
左から二番目の下仁田ネギはきれいな赤色が出ています。この色が目標。
でもその他のネギはなんか変な色。色がまだ固定していないのですね。


これが固定するのかしないのか。
固定したら新しい品種の登場ですね。一躍人気品種になったりして。

いつ固定するのか、楽しみに待っているところです。



天敵利用で有機栽培 埼玉県 瀬山明さん

5月上旬、畑の作物にアブラムシが増えてくるころ、
天敵のテントウムシも越冬から目覚めます。

幼虫
かわいい成虫からは想像がつかないような怪獣のような幼虫。
有機農業を営む農民にとっては、力強いヘルパーさん。


テントウムシは成虫のまま越冬する昆虫。
温かい石の下から出てくると、交尾して産卵します。
孵化した幼虫はサナギになるまでアブラムシを食べ続けます。

畑にアブラムシが見られるようになるのは、ちょうど5月上旬から。
エサが豊富にあるこの時期にテントウムシの産卵が始まる…うまくできていますね。

テントウムシのこの性質を利用して有機農業に利用しているのが、埼玉県で有機農業を営む瀬山明さん。
毎年5月、テントウムシが越冬から目覚めるころに大量に捕獲し、自分の畑に放しています。

捕獲中
お手製の捕獲器で効率よくテントウムシを捕獲。
家族4人だと一日で1000匹は軽いとか。


「初めて試したのが2005年。1200匹のテントウムシを河原で捕ってね、定植したナスの畑に放したの。
いつもはアブラムシがけっこうとりついてうまくないんだけど、この年は初期生育がよくて、収量も上がった。
あんな小さな虫だけど、ちゃんと役目をはたしてくれるんだよねえ」

それ以来毎年、5月のテントウムシ捕獲は瀬山家の恒例作業になりました。

成虫は飛んで行ってしまうテントウムシですが、幼虫は作物の下から上まで移動しながら
そこにいるアブラムシを旺盛な食欲で食べ続けてくれます。

捕獲器
100円ショップで購入した資材を使ったお手製の捕獲器。
埼玉県の天敵研究会でも、発表されたとか。


捕れた
捕れました~。がんばって働いてね~。

越冬したばかりの成虫を捕まえ、自分の畑に産卵してもらうことを思いついた瀬山さんは、
非常に勉強熱心な人。その畑では埼玉県の天敵の研究に、協力をしたこともあります。
その研究者とは今でも情報交換をしていて、天敵関係のアドバイスを受けることも。

「ウチの畑にはいろんな人が来るよ。いろんな人の話を聞くのは面白いし、
何か新しいことを試すのも面白いよね~。
今、古い家の蔵を改装して、イベントスペースを作ったりしてるの。
そこでヨガやったりね。楽しくなくっちゃ、農業もふだんの生活も」

緑肥
使わない畑では緑肥を栽培。紫色の花が美しいアンジェリアは、春先にすきこみます。

長年有機農業を営んできた瀬山さんですが、2002年には有機JAS認証を取得しました。
有機JASでは使える農薬もありますが、瀬山さんは一切の農薬を使いません。

作物の生育ステージごとに必要なものを観察して与える「栄養周期説」を基本にした栽培は、
長年の土づくりとも相まって、単に安全なだけではない、本当においしい野菜を生み出しています。
科学的な農業を目指し、土壌分析診断に基づく施肥設計も行っています。

最近は農業経営を息子の公一さんにまかせ、地域の活動に余念がありません。

瀬山親子
瀬山さんと息子の公一さん。「農業はできるだけ省力化」 
天敵利用や緑肥の使用などはその一環。知識がないと実現できない農業ですね。


何年か前から、リタイアしたおじさまたちを対象に、有機農業塾を始めました。
思いのほか熱心なその方たちの熱意を汲み、今後は趣味ではなく仕事として流通団体に出荷しようと目論んでいます。

テントウムシの利用も地域の活性も「楽しくなくちゃ」という瀬山さんの信条から生まれたもの。
今年は天候不順で作業が押せ押せになったため、まだテントウムシを捕獲していませんが、
出荷が一段落したら、テントウムシ捕獲に繰り出す予定です。

クローバ
畑の通路に植えてあるのはクローバー。
コナガを捕食するゴミムシがここで増殖します。天敵を増やすしかけも余念がありません。


小さな昆虫の力を借り、自然の力を利用して営む有機農業。
そんな瀬山さんの畑で採れる野菜は、とってもおいしくてエネルギーにあふれています。



瀬山さんの野菜が食べたい人は↓ここをクリック


しなびる野菜は安全?

青森県で無農薬りんごを栽培している有名な方がいらっしゃいます。
何年か前、NHKの番組で紹介され、一躍有名になった木村さん。

某宅配会社で果物産地の担当をし、
かなり先進的な技術を持っているりんご農家を見てきた経験から、
すごいことする人がいるもんだ、と感心しました。

低農薬栽培を目指すりんご農家ならだれでも「ひょっとしたら無農薬で栽培できるかも」と
ふと思う瞬間があるのではないでしょうか。

私の知り合いのりんご農家で、一年だけ実験した人がいました。

その年はとりあえずりんごはなったけど、売れるりんごはなりませんでした。
そして翌年・翌々年と一年目の無農薬がたたり、
葉は病気で落っこちて花は狂い咲き、りんごの実が普通になるまでにそれから3年かかったそうです。

「それでは家族を養っていけない。だから、無農薬栽培を諦めざるを得なかったんだけど、
自分は辛抱が足りなかったのかもしれない、収入が減ってもがんばればよかったのかも」と、
木村さんの番組を見たその農家は言っていました。

そういうことを知っていると「無農薬のりんごがなぜ作れないのか」という質問に
返答するのに少し困ります。
「りんごは無農薬で栽培するのにむいていないから」と答えるようにしています。

さて、NHKの番組中で、木村さんのりんごが一年経っても腐らずに、しなびていくという紹介がされていました。
安全性の象徴としての「しなび」の紹介のようでした。

農薬を使用したりんごでも、しなびていくりんごはあります。
小玉のりんごほどしなびていきやすいという傾向もあると思います。
自分の担当している産地のりんごが、冷蔵庫でひからびてしまうのを何度も見ました。

しなびる=安全 じゃないと思うんだけどな~。

しかし、「しなびるりんご・果物・野菜は安全」
昨今そんな風に言われていることもあるようで、時折質問されることがあります。

基本的に野菜や果物が腐るのは、そこに含まれている窒素分と水分の問題だと考えています。
上手な農家が作った野菜は、腐らずにしなびます。
誰もそんなことに気づかないのかな? 野菜をふだん見ていないのかな?

何か最近、極端な情報が独り歩きしているような、一方的なものの見方で情報が流れているような、
そんな気がして怖いのは私だけでしょうか。


プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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