水より安い日本の牛乳の真実としあわせな牛の話

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一般的な酪農では子牛が生まれたら数日後には引き離して
その後子牛には人工ミルク。母牛の牛乳は人間のものになるわけですが、
なかほら牧場では2ヶ月ほど母牛のおっぱいを飲んでるそうです。
母牛に寄り添ってる子牛もとてもしあわせそう。

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フツーに生きてたら乳牛の寿命は20歳ほど。一般的には5~6歳で更新され、
国産牛になって売られます。この牛は18歳のばあちゃん牛。もう乳は出ず、
エサを食べるだけのタダ飯ぐらいだけど元気に草を食ってました。



岩手県岩泉町で「山地酪農(やまちらくのう)」を営む
「なかほら牧場」に行って来た。なかほら牧場↓
https://nakahora-bokujou.jp/

山地酪農とは、植物学者・猶原恭爾さんが提唱した酪農のスタイルで
簡単に言うと、牛を山に放牧し自生している野シバや野草・木の葉を食べさせ、
ヒトにとって未利用の資源を牛乳に換える循環型の酪農方法のことである。

牛の糞尿は放牧地に還元されそこに育つ植物に利用される。
子牛は人工授精ではなく放牧中に自然交配し自然分娩で生まれる。
牛は常時山を上ったり降りたりして健康でストレスなく暮らし
そのおいしい牛乳を人間がいただくというステキなしくみである。

牛はそもそも草を食べる動物で、内臓もそのようにつくられている。
胃は4つあり、なかには微生物が大量に住みついていて
牧草などの粗飼料から栄養素を吸収しやすいかたちに変えている。
さらに反すうによって増殖した微生物もタンパク源として食べてしまう。

牛の飼料が牧草などの粗飼料中心から穀物飼料の多給に変わったのは戦後のことだ。
畜産業全体がそうだが、酪農はとくに搾乳や殺菌方法などの効率化がはかられた。

機械等のハード面のみならず、品種改良された牛はより多くの乳を出すようになり
放牧ではなく牛舎で飼われるようになり、穀物飼料を日がな一日食べては
毎日数30kg以上もの牛乳を搾り取られる機械のような存在になった。

輸入穀物は大量の牛糞となる。これがすべて堆肥になればまだいいが、
野積みされている現実も多くある。大いなるムダ、とも言える。

以前は安価だった穀物飼料が昨今は時折高騰するから酪農家は大変だ。
乳価はたいして上がらないため、さらなる効率化・機械化で経費削減をはかる。
補助金をもらって大規模&設備投資をすると借金はどんどん増える。

そのような苦労をして酪農家がつくる牛乳は、
海外のミネラルウオーターとさほど変わらない価格で販売されている。

子牛の飲みもの、命の源が水と同じっておかしいでしょう!
なんてことを思う人はいないのだろうか。
牛乳価格はここ数十年ほとんど変わっていないように思える。
卵と同様、牛乳も価格の優等生と言われ続けている。

ということで、なかほら牧場の牛乳である。

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乳牛には乳首が4つありますが、状態がいいときと良くないときがあって、
良くないときはその乳首から乳をしぼりません。ってことでこの牛は
2つ良くないのでしょう。搾る前にも味見したりしてるそうですが、
フツーはどうなのかなー。自動搾乳機だとおかまいなしで全部搾りそう。

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おなかがパンパンに張ってるのでみんな妊娠してるのかと思ったら、
草しか食ってないから第一胃のルーメンがものすごく発達して
おなかが横に張り出してるんだって。あらー。そうなのか。
当然のことだけど、食べものでからだが変わるのねと納得。


この牛乳は価格の優等生ではない。
720ミリリットル1,188円というビックリするような価格だ。
「スーパーで売ってる牛乳は1リットル180円くらいなのに
なんで牛乳がこんな値段?」と考えるきっかけを与えてくれる価格である。

100ミリリットルあたり165円と18円の差が、
放牧されて好きなところでのんびり草だけ食べている牛の牛乳と
牛舎につながれて安価な輸入穀物を食べている牛の牛乳の違いである。

この差はなんだろう? どこにあるのだろう?
ずっと気になっていたそのヒミツは想像以上にステキなことでありました。

さて、まずは山地酪農である。

わたくしが山地酪農のことを知ったのは2006年頃のことだ。
乳牛の牛舎における悲しい生活のことは薄々知っていたため、
山に放牧されて草を食めるなんてステキな酪農方法だと思った。

海外から輸入されるトウモロコシほかの飼料はほぼ遺伝子組み換え作物であり、
乳牛の場合、牧草などの粗飼料と穀物飼料の割合は5:5くらいだ。
(ちなみに肉牛は2:8で圧倒的に穀物飼料の割合が多い。あわわわわ)

草が主食の牛に高カロリーの穀物を食わせれば牛が出す乳量は増える。
穀物飼料主体の乳牛の平均乳量は1年間で10000リットルくらいで、
365日で割るとなんと27リットル!!! ひー。まさに牛乳製造機である。

放牧で草を食べてるホルスタインは年間4~5000リットルくらいだが
中洞牧場はジャージー牛なのでホルスタインよりも少なくて、
一日平均で8リットル程度。ってことは3000リットルくらいかな。

つまり、自然な状態の牛という草食動物から人間がもらえる牛乳の量は
一日10リットル未満と考えてもいい。そもそも27リットルがおかしいのだ。

以前北海道の副知事だったナントカさん(名前失念)と
「今の乳牛の乳量が多すぎるんですよ。だから牛乳が安くなる。
あんなに出そうとしなくてもいいんだよね、ちょびっとで」
みたいな話をしたことがあるが、たしかにそうかもしれない。

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朝と夕方、搾乳に集まってくる牛たち。帰ってこないやつは迎えに行きます。
ものすごい傾斜地でもへーきです。ときどきよそから牛を引き取ることがあるけど、
牛舎で飼われていた牛だと、足腰が弱っててこの傾斜が上がれないとか、
穀物ばっか食ってたから草を食べないとかいう牛もいるそうです。ううう。

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牛に角があるのにお気づきでしょうか。なかほら牧場では除角はしません。
牛の角は鹿と違って神経も血も通ってるので切り取られると痛いのです。
角のある乳牛は初めて見たので「ないはずのものがある」ことに驚きました。
ってことで除角は一般的に行われています。危険だからしょうがないのです。
よそから来た牛は除角されてるので、角のあるのとないのが混じってます。



わたくしは一度北海道の大規模酪農を見学したことがあるが、
悪臭に満ちた牛舎のなか、牛は糞尿で汚れた床に寝そべってもぐもぐと反すうしていた。

持ち主は牛がウンコまみれなことは全く気にしていないようで、
牛糞の堆肥舎が自慢だったのだが、牛舎を見せて「しまった!」とか
思わないのかなーと思ったが、とくにそういうこともなく牛舎も自慢していた。
このような牛を見た一般人がどう思うかとか考えていないようだった。

TPP反対の番組に出演していた北海道の大規模酪農家の搾乳風景では、
汚れた牛の乳首を搾乳機が自動でジャーっと洗っており
その施設を建てるのに数億円かかって補助金だからTPPがどうたら、と言っていた。

どう見てもウンコまみれな牛と乳首についての言及はなかった。
「しまった!」とか思わないのかなと思ったが、やはり自慢げだった。

その乳首から出てくるのはどんな牛乳だろう。
おそらく生菌数が多いはずだ。それはどこかに集められ、
生菌数の少ない牛乳と混ぜられるから全体的に菌の数は薄まり、
120度で2秒殺菌されてお風呂上がりにがぶがぶ飲める180円の牛乳になる。

清潔な牛舎で飼われている牛もいるし、清潔な牛舎でつながれている牛もいる。
いいとか悪いとかではなく、わたしたちはそのような牛の牛乳を飲んでいる
ことを知っておいたほうがいいだろう。

どんな牛が牛乳を出しているのか、施設は、餌は、どう飼われているのか。
経済動物だからしょうがないじゃん、だって安い牛乳が好きだもん、
と言われればそれまでだ。それはそれでいいのである。

でも、とわたくしは思う。 

では理想的な酪農とはどんなもんですか? と聞かれたら。
答えは岩手の山のなか、なかほら牧場にあるのだった。

ってことで長くなったので続きは次回ってことですんません。


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プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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