フレーバーの誘惑

gazou 020
官能的なフレーバー「マスカット香」を持つ高級ぶどう「ルビーオクヤマ」。
ちょっぴり渋みがある年もあるけど、それがまた大人の味。マスカット香を持つぶどうは
それほどなくて、このフレーバーがあるというだけで高級感てんこもりです。



例えば、フルーツとナッツの入ったバターケーキを食べたとき。

バターの風味、ドライフルーツの香り、ナッツの食感、
それぞれの味が混ざり合い、それはそれは美しい音楽を聞いているような
そんな気持ちになったりします。コーヒーがあれば、もっと幸せです。

このとき、わたしの舌が感じているのは、お砂糖の甘さと
ドライフルーツの酸っぱさ、コーヒーの苦さのみ。人間の味覚は、
甘い・酸っぱい・苦い・塩辛いの4つしか感じることができませんのです。
(日本人のみ「うまみ」を感じるという説あり)

ドライフルーツやナッツを食べていると認識できるのは、鼻のおかげ。
のどから鼻に移動する空気(内気)で、私たちは食べもののにおいを感じています。


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名前にマスカットを冠してるわりにマスカット香はめったに出ないネオマスカット。
これだけの色合いになるまで樹におけば、それなりに香って来ますが、
市販のものはもっと緑色で出荷されてます。ネオマスの本当の味が出るのはこの時期。
でも、スーパーにはもう売ってない…悲しい事実。



ためしに鼻をつまんで何かを食べてみるとわかります。
自分が何を食べているのか全くわからなくなりますよ。
薄い塩水と味噌汁との区別もつきません。おいしいとも感じなくなります。

「鋭い味覚」とよく言いますが、実は舌ではなく嗅覚が鋭いってことなのですね。

そのすんばらしい器官である鼻。
外に向かって無防備に開かれているところは耳と同じように思えます。

でも、耳は塞げます。さらに入ってくる音を選別することもします。
何かに集中すると聞こえなくなることだってあります。
聴覚は大脳が管理しているから、そういうことが可能です。

しかし、鼻は塞げない。死んでしまうから。
拒否しようとしてもにおいが入り放題に入ってくるのが鼻。


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これも「マスカット」の名を冠している品種「マスカット・ベリーA」。
それこそ人気なくて、今や淘汰品種。完熟すれば巨峰よりおいしいというベリーA。
最近は生食用ではなくワイン用ぶどうとか言われ始めたベリーA。がんばって欲しいベリーA。



鼻から入ってきたにおいは、ざっくり言うと、
嗅球という器官から大脳に伝わり、分類され認識されています。

バラの花のにおいとか堆肥のにおいとか、高校のときつきあってた
男の子のにおいとか。においの記憶で、安心したり心地よくなったりします。
経験に基づいたその「におい」は情動と強く結び付いています。

特定のにおいを嗅ぐと、記憶がフラッシュバックすることもあります。

また、赤ちゃんは母親のおっぱいのにおいを嗅ぎ分けることができます。
どころか、母親も自分の子どものにおいを嗅ぎ分けられるのですから、
鼻にはにおいを感じる以外の役割があることをそこはかとなく感じさせますね。

さて、その威力のもとは鼻の奥にあるもうひとつの器官「ヤコブソン器官」。
これが、原始的な脳である大脳辺縁系に直接結びついています。

gazou 020
ほんのりとマスカット香がしないでもないロザリオビアンコ。
ジベレリン処理をしてある種無のロザリオが一般的。でも種ありのおいしさを知ると、
そんなものは食べられません。店頭に並んでいるものの色合いはまだ若いので、
ロザリオを選ぶ際は黄色くなってるのを見つけて買うのがお勧めです。



大脳の影響を全く受けることなく、爬虫類の脳で、
知らない間に私たちはいろいろな判断をしていると言われます。

俗にフェロモンとか呼ばれるもの、人間の本能に根ざしたものが、
このヤコブソン器官に左右されています。

女学生の寮で月経周期が同期するとか、多数の男性と一緒にいると
月経周期が安定するとか、排卵時の女性はにおいの好みが変わるとか。

実は女性は男性の体臭で繁殖を判断しているという実験結果も出ており、
人間って実はにおい(感知できるもの・できないもの)にものすごく
左右されてるんじゃないかと思わずにいられませんのです。

てな性的志向における嗅覚の役割は大変面白いのですが、
それは置いといて。

りんご1
りんごにも不思議なフレーバーを持つ品種があります。「こうたろう」は、
何とも言えないフレーバーがあるりんご。その他アキタゴールド(スパイス臭)や、
完熟の王林にもすばらしい芳香がありますよ。そういう王林はお店には売ってないけど。



こんなことをくどくどと書いた理由は、
実はわたくしがフレーバーフェチだからでございます。

フレーバーとは、鼻をくんくんさせても感じない香り。
食べものを口のなかに入れて、噛み砕いて初めて立ち上る香気で、
空気がのどから鼻に抜けるときに感じられるもの。

たとえばサンタローザというすももの洋梨のような芳香や、
だだちゃ豆のナッツのような香り、シェリー樽で寝かせたワイン、
ヒューガルテンホワイトの小麦とコリアンダーの香りなんかがもう、
あああ、ダメダメやめて~ってくらい大好き。

食べものの嗜好は、かな~りこのフレーバーに左右されている…
そう言っても過言ではありません。

わたくしのようにことさらに特徴的な香りが好きなタイプと、
そうじゃないタイプに分かれるとは思いますけど。

gazou 010
すもものくせに洋梨のフレーバーを持つサンタローザ。今年もうまかったです。
それにしても、ニッポンの果物はおしなべてフレーバーが出る前に収穫され、
店頭に並んでるものが多いです。いい果物屋さんを探すのが先決って気がしてきました。



しかしですね。
中にはフレーバー(というかにおい)に鈍感な人がいるのも事実です。

常日頃、ご家庭に合成香料のカタマリ(芳香剤とか)を置いていたり、
化粧品や整髪剤などを常用していたり、清涼飲料水を飲んでたり。

つまり、合成香料にさらされていればいるほど、
自然な香り(フレーバー)を感じる能力は落ちて行きます。

今やどんな香りでも合成できるようになった、素敵に便利な世の中。
さらに、どんなものにも香りをつけることが可能です。

その香りは天然のものよりわかりやすく、強力で刺激的、しかし、
天然の香気成分とは似て非なるものでしかなく、
天然の成分と同じパワーを持つことはありません。

自然が準備してくれた、それぞれのものが持つ香り、
それらをめいっぱい感じながら生きるのと、そうでないのとでは
人生の楽しみが少し違うような気がします。

gazou 015
アロマセラピー用のエッセンシャルオイル。それぞれに効能があります。
風邪のひき始めにはティートリーやユーカリ。気分がふさぐときにはクラリセージ。
軽いやけどにはラベンダーなど。合成香料にはこういった効能はありませんです。



くっきりとした刺激的な香りが世に満ち溢れている理由は、
清潔志向が強すぎて、イヤなにおいを嫌う人が多くなってるから?
消臭なんて本当に必要なのかしらん? 

そう思うのは、カメムシのにおいが気にならないわたくしだけなのかな。
ヒトの自然な香りを感じる能力が落ちる一方な気がする今日この頃です。

しかし、頃は秋。
「アタシを食べて!」と官能的な香りで動物を誘惑する果物の季節です。

本能に突き動かされてその誘惑にうっかりのってしまう楽しみ。
食べてうっとりする幸せ。
そういった官能的な体験が、12月上旬まで可能です。

フレーバーフェチとしては、ヨロコビに打ち震える2カ月間。
みなさまも、ぜひ、鼻の奥をひくひくさせてお楽しみください。


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No title

こんばんは。
ほんたべさん、フレーバーフェチなんですね。

美味しいぶどうは、口に入れた瞬間何とも言えない香りが広がりますよね。最近は、大粒種が人気ですけど、ベリーAみたいな中粒種にも味と香りのバランスの良い品種が沢山ありますね。
中粒種のブドウは、種ごと食べるのが通。種を出そうとすると最後に酸っぱい味が残るので食べられなくなったんですかね。でも種ごと食べるとベリーAの味の奥深さは、巨峰では味わえません。

Re: No title

スナフキンさん

こんばんは。

> ほんたべさん、フレーバーフェチなんですね。

そうなんですよ!!
一緒に産地周りしたレストランのシェフが「変な趣味だね」と言いました。
特徴的な香りがあるものばかりに感動するからという理由でした。

> 美味しいぶどうは、口に入れた瞬間何とも言えない香りが広がりますよね。最近は、大粒種が人気ですけど、ベリーAみたいな中粒種にも味と香りのバランスの良い品種が沢山ありますね。

実はわたくし、ふる~い品種、ポートランドが好きです。
皮離れがいいので、つるっと食べます。
もちろん種は出しません。種を出すのは邪道です。

スチューベンも完熟のヤツはものすごくおいしいと思います。
そんなのはでも、農家のところに行かないと食べられませんよねえ。
スチューベンなんか貯蔵ぶどうだもんね。


> 中粒種のブドウは、種ごと食べるのが通。

種を出そうとすると、舌の先とかで種をより分ける手間がかかるし、
種のまわりのすっぱいのが不愉快だし、ぶどうの本当の味を楽しめないと思います。
巨峰くらいの大きさなら、種ごと食べますです。

この手間がイヤだからって理由で、種無が主流になってきてるのかもしれませんね。
剪定の省力化が先か、消費者の嗜好が先かという話になってしまいますが。

>でも種ごと食べるとベリーAの味の奥深さは、巨峰では味わえません。

わたくし実はベリーAが好きじゃないんですねえ…。
皆おいしいって言うんだけど。

ベリーA作ってる農家は皆、完熟のベリーAの味の複雑さは素晴らしい!って言いますが、
フレーバーフェチにはいまひとつわからないベリーAの良さなのでした。

たぶん香りがそれほどでもなくて、酸っぱいのが理由だと思います。
マスカット香が出るって言う人もいるけど、そんなベリーA食べたことないし…。
あ、ベリーAの悪口になってきた…やめとこう。

No title

ほんたべさんこんにちは。
とてもすばらしい記事ですね。

匂い、香り、フレーバー、おいにい(違うか)。
どれも本能にとても近い、官能的な感覚。

プルーストの『失われた時を求めて』の長大な思い出話がまさに紅茶にひたしたプチ・マドレーヌの「フレーバー」がきっかけだったように、
失われてしまったように思われているけれど実は単に隅っこにしまいこまれているだけの膨大な記憶の海と直に結ばれているのが臭覚だと思います・・・

・・・って実はプルーストなぞ読んだことないですが ^^

こうキーを打つそばからキンモクセイの芳しい香りが。
この時期だけのこの匂いも何か記憶の奥の方と深くつながっているような感じがするのを毎年感じます。

とはいうものの僕はほんたべさんほど匂いの感覚が鋭くない
(あるいは長年の合成香料使用によって毒されている?)ため、
サンタローザもシェリー樽で寝かせたワインもましてやヒューガルテンホワイトの小麦なんぞにまったく縁のない食生活に甘んじております。
かろうじて「だだちゃ豆のナッツのような香り」とコリアンダーの香りが
「うんうん、そうそう」と同意できるくらいすかね。・・・残念!

関係ないですが、僕はペンキの匂いがどこからか漂ってくると強烈な郷愁に襲われます。
もちろんこれも幼かりし頃のある特定の記憶に結びついているにちがいないのですが・・・。

ともあれ、これからもこちらの蒙を啓いてくれる刺激的な記事を期待しております。

ではでは v-273

Re: No title

Fuさん

こんにちは。

> 失われてしまったように思われているけれど実は単に隅っこにしまいこまれているだけの
膨大な記憶の海と直に結ばれているのが臭覚だと思います・・・

いや~。プルースト、読んだことないっす。

今回は、ずっと気になってたけどなかなか書けなかった「におい」について書いてみたです。

最初に嗅覚に興味を持つきっかけになった本は、
パトリック・ジュースキントの『香水』(最近映画になりました)って本でした。

その後、ライアル・ワトソン『匂いの記憶』
最近の『人はなぜSEXをするのか』で「おお!」と驚きました。
あとディスカバリーチャンネルでも「おおおお~!」と驚きました。

実は人を好きになるのもにおいが関連しているし、好きになった人とキスして、
そこから先に進むかどうかもにおいが関係しているって実験結果があるようです。

驚愕ですなあ。人の顔とか性格が好きになるんじゃなくて、
じつはにおいだったとは…やはし人間は遺伝子の乗り物なのですね。


> この時期だけのこの匂いも何か記憶の奥の方と深くつながっているような感じ

わたくしはキンモクセイのにおいをかぐと、中学時代にぴゅっと戻ります。
中学3年、下校時に、もうじき別の高校に行っちゃう友達と別れがたくて、
だらだらと十字路で2時間ぐらいだべってた記憶に。

あまずっぱいような、切ない記憶です。

> 関係ないですが、僕はペンキの匂いがどこからか漂ってくると強烈な郷愁に襲われます。

何なんでしょうね。
きっと記憶の奥深くに何かしまわれてるんでしょうね。
取りだせないのがまた、郷愁なのでしょうけど。

記憶とにおいの結びつきってものすごく強いんですね。

幸せな記憶ならいいけど、悲しい辛い記憶ともにおいは結びつくので、
そういうにおいは、幸せな感情で上書きしないとダメみたいです。
でもあんまり意識されないんでしょうね~。においだから。

No title

>実は人を好きになるのもにおいが関連しているし、好きになった人とキスして、
そこから先に進むかどうかもにおいが関係しているって実験結果があるようです。

むむっ、そうかもしれないです。
先に進むかどうかはおいといて、
人を好きになることとにおいはすごく関係してるというのは経験上(笑)、思い当たるフシあるな~と。

大昔つき合っていた女の子がよく付けていた甘い香水のかおり、
今でも強烈に頭(大脳辺縁系?)にこびりついてますもん。
電車とかで同じにおいがどこからかしてくるとものすごく妙な気分にさせられることがあります。

あのにおいって、もしかして自分にとってフェロモン的に振舞ってたってことなのかな?
実はその人よりもそのにおいに惑わされているだけだったりして(笑)。

嫌な香水のにおいの方が多いですが、
ある特定のにおいにエラく敏感に反応する自分にびっくりさせられたりします。

>やはし人間は遺伝子の乗り物なのですね

普段自分は理性的・主体的に物事を判断してるように錯覚してますが、
実はそうした本能に近いところにある感覚によって「判断させられてる」のかもしれないですね。
特ににおいは理性に強烈な一撃を食らわせるすごい力があるのを知ってます。

余談ですが、僕が園芸に興味を持ったきっかけも、
とあるビルの屋上のハーブ園でラベンダーやローズマリー、
タイムやセージのにおいを嗅いで恍惚とさせられたのがきっかけだったのを思い出しました。

ではでは

Re: No title

Fuさん

おはようございます。
いいお天気ですね!

> 大昔つき合っていた女の子がよく付けていた甘い香水のかおり、
> 今でも強烈に頭(大脳辺縁系?)にこびりついてますもん。
> 電車とかで同じにおいがどこからかしてくるとものすごく妙な気分にさせられることがあります。

おおお!Fuさんもですか。

わたくしも、タクティクスという資生堂のオーデコロンのにおいを嗅ぐと、
高校の時に付き合ってた子の顔がフラッシュバックします。
夏・バイク・暑い・汗のにおい…みたいな思い出も一緒に。

幸いなことにもうあのコロンをつけてる人いないので、そういうこともなくなりました(笑)

>
> あのにおいって、もしかして自分にとってフェロモン的に振舞ってたってことなのかな?

うんにゃ。それはすでに、Fuさんの情動と彼女の香りが強く結びついてしまっているのですよ~。

戦略的に香水を使えみたいなことを薦めてる本もありますから。
(自分の香りをパートナーに刷りこめ!みたいな。別れた後が大変だと思うけどな~)


> 実はその人よりもそのにおいに惑わされているだけだったりして(笑)。

ご自分のつきあってきた人のにおいを思い出せますか?

おそらく同じ系統のにおいだと思います。
それがFuさんにとって心地よいにおいなのです。

わたくしの場合はせっけんみたいなミルクみたいなにおいがベースで、
その上にナッツとか枯れ草とかが合わさってるようなにおい…かな~?
においを表現する言葉って難しいですね。

こう書くといいにおいみたいだけど、そういうわけじゃありません(笑)


> 普段自分は理性的・主体的に物事を判断してるように錯覚してますが、
> 実はそうした本能に近いところにある感覚によって「判断させられてる」のかもしれないですね。
> 特ににおいは理性に強烈な一撃を食らわせるすごい力があるのを知ってます。

男の人ってにおいについてあんまり考えたりしないもんだと思ってました。
Fuさん、さすがですね。

なぜかはわからないけど、馬が合わないとか、好きじゃないとかって人は、
ひょっとしたらにおいが嫌いなのかもしれないとか思うと、
理性の限界を感じてちょびっとぞ~っとします。

でも人間も動物だから、当たり前なんだろうと思ったりします。

>
> 余談ですが、僕が園芸に興味を持ったきっかけも、
> とあるビルの屋上のハーブ園でラベンダーやローズマリー、
> タイムやセージのにおいを嗅いで恍惚とさせられたのがきっかけだったのを思い出しました。


ハーブの香りから園芸だったのですね。

私はその興味がアロマセラピーに向かったです。
人それぞれで面白いですね~。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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