無農薬のすももを作る人 山梨県南アルプス市 古郡正さん

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古郡さんの無農薬すもも。品種名はレッドエース。
赤い色合いがきれいなのですが、写真ではうまく表現できません。



「俺がすももを作ってるんじゃないよ。俺は見てるだけ。
すももはすももの樹が作ってるだから」

古郡さんに会うといつもこう言われます。

南アルプス市ですももを栽培している(と言うと違うと言われますが…)古郡正さんは、
10何年か前に農薬をまくのをやめ、無農薬ですももを育てています。

農薬をまくのをやめて少しの間は剪定もしていましたが、
今ではあまりにも混みあった枝以外は切っていません。

肥料も全く与えず、すももの畑に生えている雑草のみで
肥料分の供給をしています。

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すももの樹の下はライ麦やその他の雑草などで草だらけ。
この草が炭素分を供給し、微生物の繁殖も助けます。
「チッソ飢餓になるんじゃないのかな?」
「どうだろう…畑作なら影響は大きいけど、果樹だからなあ」
古郡さん、後ろ姿でのご紹介です。



古郡さんのすももは、甘くて果実がしまっていて一度食べたら忘れられない味。
ほかのすももはもう、食べられなくなる味。

すももの樹がなりたいようになった結果? もしかしてそれが技術?
どうなのでしょう…でも、おいしいことは事実としてはっきりわかります。

以前、「栄養周期」という農業技術を勉強していた古郡さんは、
樹の生理を見極めること、樹や果実の生育がコントロールできること、
収量や食味の向上が自分の力で可能なことが、ものすごくおもしろかったと言います。

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「何もしない」とは言え、食味を向上させるための「摘果」は行います。
適正な数にすることで、光合成をした糖分を果実に行き渡らせられます。
果実をならせればそれだけ収量が上がりますが、味は…「?」
ならせる数は果樹農家の良心(欲?)っていうんでしょうか。



栄養周期はそもそもぶどう栽培から始まった技術。

古郡さんは以前巨峰というぶどうを栽培していました。
一年枝(その年に出た芽)に果実がつくぶどうは、とくにコントロールが容易く、
いろいろなことを試せて、さらに、樹が思い通りになることが楽しかったのだそうです。

しかしある時、このようにコントロールすることが本当に樹にとっていいのかどうか、
そんな疑問を感じ、栄養周期の技術を果樹に対して使うのをやめてしまいました。
樹がやりたいようにさせてやるのがいいんじゃないか…今でもその方針は変わりません。

「でもなあ、樹を見てると、あっ、今この時期ならこうやればいいだろうな~と思うことがあるよ。
だけどやらない。見てるだけ。そう思う自分がまだまだだと思うだけ」

私はこの話を聞いた際、牛を探しに行き、最後に牛のことも自分のことも忘れてしまう
「十牛図」という悟りへ至る道が書いてある絵のことを思い出しました。

高い技術を持っているにも関わらず、それをあえて使わない。
古郡さんはまるで求道者のようです。

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すごくわかりやすい「除草剤をまいてある畑」と「そうでない畑」を見つけました。
一般的には下草を刈る作業が大変。管理しやすいので、樹の下に除草剤をまきます。
草を枯らしてしまう除草剤は、畑の微生物も殺します。それがどんな影響を与えるのか。
私にはわかりませんが、除草剤をまいた畑で採れた果物は食べたくないかも…



「無農薬・無肥料栽培」と言うと、青森県の木村さんを思い出します。
でも少し違うような気がします。

木村さんは無農薬の果樹栽培に取り組んでいらっしゃいますが、
「取り組んでいる」という言葉では、
古郡さんのしていることは表現できないなあ…と思うのです。
(花が咲いてから果実が収穫できるまでの期間が長いりんごと、
りんごに比べて2カ月も期間の短いすももを、単純に比較してはいけませんが)

古郡さんの畑でも、木村さんのりんご畑と同じように、
農薬をやめてから何年か、カイガラムシの被害が多く出ていました。
でも、最近では畑でカイガラムシ自体を見なくなりました。

畑の環境が整ってきたせいか…
古郡さんは「樹に矛盾がなくなったからかも」と言います。

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この病気は灰星病。すももや桃によく出る病気です。
枝の隙間などで越冬し、花の残骸で繁殖します。
殺菌剤をまけば抑えられるんですけど…まかないからよく出ます。



ただ、シンクイムシという果実を食害する虫の被害が年々ひどくなり、
早生品種はそれほど問題ないのですが、7月下旬の「ソルダム」、
8月出荷の「太陽」という品種の出荷がなくなることがあります。

一般的なすもも農家の農薬散布回数(成分数)は、
山梨県で12回(早生品種)~15回程度(その他)。
シンクイムシ対策では、一般ではほぼ一週間~10日に一度、殺虫剤をまいています。

農薬をまけば、シンクイムシ被害はなくなります。

シンクイムシにやられて出荷数が減ってしまっても、ただ
「今年はシンクイが多くてすももが少なかったじゃんね」という古郡さん。
「こんな少ないんじゃあ、困っちゃうじゃんね」…それで終わりです。

すもも2
すももは過熟になりやすい果物のため、一般ではまだ青い状態で収穫することが多い果物。
市販のすももがすっぱいだけだったり、ボケたような味だったりするのは、早もぎが理由。
畑で食べるすももの味を知ってしまうと、店頭のすももは食べられなくなります。
ほとんどの人がおいしいすももを食べたことがないのは、そういう理由なのですね。



出荷が少なくなることは収入も減ること。

何年も前、桃は農薬をまくのが嫌だから切っちゃって、
農薬をまかずにいたら、ぶどうの樹は枯れてしまいました。
(糖度が20度もあるおいしい巨峰だったです)

でも何もしないという方針は変わりません。

すももの樹がなりたいようにならせているのだと。
自分は少しお手伝いしているだけだと。
そんなことをさらりと言い、笑う古郡さん。

う~ん、絶対誰にも真似できない。
(「そんなこと、しなくてもいいさよ~」と古郡さんに言われそうですけど)

今年のすももは、ひょっとしたら7月末で終わってしまうかもしれません。

シンクイムシの被害ができるだけ少なく、少しでもたくさん収穫できるよう
東京から願っている私です。



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No title

ほんたべさん、こんばんわ。古郡さんの言葉、生産者として究極の言葉だと思います。

>「俺がすももを作ってるんじゃないよ。俺は見てるだけ。
僕も、きのこの栽培は、管理するのではなくて、手を差し出す程度だと思っています(難しいですが)。

1枚目のスモモの写真を見て、今年もたくさん採れたらいいなぁと、僕もここから願いたいと思います。

究極の言葉!

駆動さん

>古郡さんの言葉、生産者として究極の言葉だと思います。
>「俺がすももを作ってるんじゃないよ。俺は見てるだけ。


そうですよね! 確かに、人間は手助けしているだけなのかもしれないんです。
それを見つめられるのってスゴイなあ…と。
初めてそう言われた際には「なるほど、そうだよな」と思ったもんです。

そういうことってなかなか思いつかないです。

とくに果樹栽培の場合は周年栽培なので、畑作とはちょっと違うこともあり、
「俺がやってるんだあ!」的な傲慢さは、皆あんまり持っていないのかもしれません。

> 1枚目のスモモの写真を見て、今年もたくさん採れたらいいなぁと、僕もここから願いたいと思います。

それは心強いです! よろしくお願いいたします!

今年のすももは「近年まれにみる不作」らしいです。
果樹は一年一作で取り返しがつかないので、大変なんですよねえ…ほんと。


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Re: 教えてください。

松崎豊明様

こんにちは。訪問ありがとうございます。

古郡さんのすももは、一般市場には出ておらず、有機農産物宅配会社「大地を守る会」に出荷されています。
今年は不作のため、大地を守る会の宅配でも注文は取れず、野菜セットなどに不定期に入っていると聞きました。

また、シンクイムシ被害と春先の受粉不良で、これから出荷される品種「太陽」も「ソルダム」も不作だということです。
今年は難しいかもしれません。

ご希望にそえず、申し訳ありませんでした。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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