水より安い牛乳の話

つつかれるカメラマン
「あんた誰?何してんの?」牛は大変好奇心旺盛な動物なので、
人が来ると見物に来て鼻をおしつけ鼻水をつけてくれます。よく考えてみると乳牛ってのは
集団生活してる若い娘みたいなもんなんですね~。「なになになに?なんなのよう~?」
そんなかしましい声が聞こえてきそう。私の前にも皆で集まってきましたです。



幼いころから牛乳が苦手です。
学校給食が、本当に本当に苦痛でしょうがありませんでした。

で、編み出したのが、「いただきま~す!」の後、
とにかく牛乳だけ一気飲みするという方法。
このおかげで、9年間の学校給食期間中「牛乳飲めない子」という
レッテルを貼られるのはなんとか回避することに成功しました。

もちろん自宅でも全く飲まず、風呂上がりの一気飲みなども全くせず、
牛乳をほとんど飲まずに大きくなったです。

生クリームもバターもチーズも好きなのに、牛乳だけ苦手。
理由は長い間不明でした。

しかし某D社に入社し、低温殺菌牛乳を初めて飲んだとき
「おいし~い!」と思い、飲めなかった理由がわかりました。

IMG_5539.jpg
一般的な牛乳。超高温瞬間殺菌(UHT)という方法で殺菌されています。
UHTでは80~85℃5~6分の予備加熱後、120~130℃で2秒間殺菌します。
このような高温をかけるため、そもそもの牛乳の味が変わってしまうのですね。

IMG_5535.jpg
こちらは一般的に入手しやすいタカナシの低温殺菌牛乳。63℃~65℃で30分間加熱し、
有害な菌のみを殺菌する低温殺菌法は、そもそもはワインの殺菌法でした。
これはLTLT(低温長時間殺菌法)と呼ばれます。付加価値商品なので高いですね。



まず牛乳パックの紙のにおい、そして牛乳のにおいが嫌。
舌にからみつくような、あのにおい。
実は低温殺菌牛乳にはそのにおいはありません。
牛乳独特のあのにおいは、超高温殺菌中につく焦げ臭と言われています。

日本では、牛乳をわざわざまずくして飲んでるのでした。

さて、お子様がいらっしゃる方ならご存知だと思いますが、
動物の乳というのは、母体の血液が原材料です。
血液が乳房に集まり、子どもに飲ませる栄養豊富な飲みものに変化します。

なので、母乳育児中は、肉や刺激物を控え野菜とごはんという
日本の伝統的な食生活を送るのが理想的といわれます。

当然ですが、牛乳のもとも牛の血。
いいもの食べてる牛の乳は、やっぱりおいしいってことなのですね。

ホル
岡山県で放牧している農場のホルスタインの皆さま。搾乳時間が来たので、
搾乳施設に向かっています。日がな一日牧場のあちこちで好き勝手に過ごし、
搾乳時間にもらえるおやつを食べに戻ってくるのです。ホルはでかいのでビビリます。



では牛にとっていいものって何でしょう。

牛は反芻動物なのですから、当然「草」。牧草です。しかしですね。
現在の日本の酪農では穀物飼料を食べてる牛がほとんどです。

通常、穀物:粗飼料の割合は、4:6。飼料の4割が穀物。
穀物を食べてるホルスタイン種は、年間8000~10000リットルの乳を出します。
穀物は、牛の乳の量を増やし、乳脂肪率を高くしてくれるのです。

では、穀物飼料を食べないホルスタイン種の乳の量はどれぐらいになるか。

これがびっくしするほど減るのですね。年間3000リットル位。
半分から1/3になるわけで、非常に効率が悪いのです。
同じだけの売り上げをあげようとおもったら、牛の量を倍にしないといけません。

一頭の乳牛を飼うのに適正な草地の面積は1ヘクタールと言われています。
せまい日本。大量の牛を飼う、そんな土地がどこにあるのだ。

ジャージー
小柄で乳量が少ないけど乳脂肪分は多いジャージー牛ちゃんたちは、
そもそもは狭い土地で酪農をするのに向いているからということで導入されました。でも
乳量が少ないので、結局付加価値商品に。日本最大のジャージー牧場は蒜山にあります。
飼料の率を聞いたら、やっぱり穀物4に粗飼料6でした。乳量は6000リットル位だったかな。



現在の日本型の酪農は、狭い国土で最大の乳量を上げるために
開発された独特の方法。戦後米国から輸入した安価な穀物を餌にし、
効率化を図った結果です。

これが、水より安い牛乳を作るための方法なのでした。
さあ、その乳牛はどのように育てられているのでしょうか。

牛乳のCMを見ていると、広大な牧場で牛が草を食んでる風景が
よく出てきますが、牛は基本的に放牧されることはありません。
牛舎に入って(時折はつながれて)、配合飼料や草を食べてます。

で、時折「運動場」に出してもらい、運動場で草を食べるのです。

北海道にある広大な草地は、牧場ではなく牧草を取るための土地。
牛が放牧されてるイメージは、メディアに植えつけられたもの。
フツーの乳牛は牛舎と運動場を行ったり来たりしているのです。

では、乳牛のライフサイクルを見てみましょう。

放牧
山地酪農を実践している岡山県の牧場のブラウンスイス種。乳肉兼用牛です。
山間地に向いた足腰の強い牛ということで、島根県の木次乳業さんが16頭輸入したのが最初。
昭和の時代ですから1ドル360円とかでしょう。ものすごく高かったんじゃないかな。
日本にいるブラウンスイス種は木次乳業から派生したものらしいです。



乳牛はだいたい生まれて2年で、最初の妊娠をします。
妊娠期間は約9か月。出産後の初乳は大切なものなので子牛が飲みます。
子牛はその後人工乳を飲み、オスなら肉牛、メスなら乳牛になります。

搾乳期間は10カ月程度。途中で種付けされますが乳は出続けます。
搾乳期間が終わると、出産まで2カ月ほどお休みして、
再び出産→搾乳というサイクルを繰り返します。

一般的なホルスタインでは、だいたい4産程度で更新と言われます。
長生きさせると乳の量が落ちるので、効率が悪くなりますからね。
乳牛の寿命は5~6年。
その後は廃牛になり、肉になったりペットフードになったりします。

この事実は一般ピープルに知られることはなく、ほとんどの人が
売ってる牛乳は北海道の広大な牧場で育った牛の乳だと思っています。
「んなわけないじゃん」なんてことも、脳裏をよぎることはありません。

年間20000リットル以上も出す乳量の多い牛がいますが
「スーパーカウ」と呼ばれ、素晴らしいと褒めそやされます。
人間にとってはいいことでしょうが、牛にとってはどうなのかな。

ブラウンスイス
子牛の期間は育成牛として大人の牛とは分けて育てられます。
母牛の乳は1週間ほど飲めますが、その後は人工乳。引き離されると子牛も母牛も、
少しの間悲しげに啼くそうです。私たちは子牛の取り分をいただいているのです。



乳房が大きくなりすぎて、乳首を自分でふんづけてケガしたり、
そもそもが反芻動物なのに、穀物食ってるから病気になっちゃったり
そんな牛がたくさんいることも誰も知りません。

ただ、スーパーに並んでる198円の牛乳を何も知らずに買い、
高くなると「牛乳が高いのは困るのよね」とか思うだけ。

日本でアニマルウエルフェアが定着しないのは、
消費者の無知も責任あると思いますが、畜産・酪農業界から
こういう情報が全く流れないことが理由なんじゃないかと
常日頃思っているわたくしです。

そんななか、日本の酪農に一石を投じている人たちがいます。

中山間地でも可能な日本型の酪農。
それは「山地酪農(やまちらくのう)」と言われ、日本に数ヵ所
実践している牧場があります。大変理にかなっている酪農方法です。

あっ、でももう2000字超えちゃった。

山地酪農については、また次回にでも書くことにいたしましょう。
牛乳の殺菌方法についても、ちょっと言いたいことがございます。


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No title

こんにちは。
ここにも経済性と効率を追い求めた悲劇がありますね。
穀類を食べ続ける牛の胃は、薄くて病的になります。
大学時代、畜産を専攻していた時に
食べ物による家畜の生育の違いの研究を良くしました。

一方で皇室御用達の畜産物は、
御料牧場というところで飼育されています。(今もあるのかな?)
国民向けに生産される家畜と違って、
広々とした環境で昔ながらの育てられ方をしていました。
本来あるべき姿は、こういう事なんだろうなと見学しながら思いました。

ほんたべさん、牛乳が美味しく飲めるようになって良かったですね。子供たちの好き嫌いやアレルギーは、
化学調味料と添加物による味覚の麻痺と
本当の美味しい食べ物が減ったことに原因があると思います。
ほんたべさんの記事、
切り口が素敵で分かりやすいと思います。

No title

いままで何度も値下げしたのに、一回値上げしただけでマスコミに「消費者の財布を直撃」と叩かれるのが牛乳。

山地酪農

乳牛一頭に草地1ヘクタールですか。
放し飼いでいいなら、土地自体は結構あると思うんですよ。
地図見るの好きなので空撮写真とか見ますけど、
中山間地の耕作放棄地とか廃集落とか。

ただ日本の場合、
細切れの土地の権利関係の対応が厄介なのと、
乳牛は乳を搾らなければいけませんから(定期的に集めなきゃいけない)、
その辺との兼ね合いもあるのかなぁーって。
山地酪農のトピックを待ちたいと思います。

No title

学生の頃住み込みをしていた放牧酪農の牛屋さんで、
わたしの誕生日に生まれた「牛のサチコ」は、
8歳くらいまで現役だったようですが、さすがにもう引退したかな・・・。

「牛のサチコ」に子が生まれた、孫が生まれた、と聞くたび、
複雑な心境だった、うら若き20代でした(笑)

久しぶりに酪農家さんに連絡を取ってみたくなってしまいました。

珍しい畜産ネタ、興味深く読みました。

Re: No title

スナフキンさん

> 大学時代、畜産を専攻していた時に
> 食べ物による家畜の生育の違いの研究を良くしました。

畜産を学んでらっしゃったんですかあ。
それは興味深いですね。
いつかブログに書いてくださいませ。


> 一方で皇室御用達の畜産物は、
> 御料牧場というところで飼育されています。(今もあるのかな?)


日本で最初に酪農を始めたところですね!
牛乳はやんごとなき方々の飲み物だったんですよね~。
今や庶民の飲み物です。
日本は豊かになったってことなのでしょうか。


>
> ほんたべさん、牛乳が美味しく飲めるようになって良かったですね。

そうなんです!

某D社に入社後、急激に食べられるものが増えたのです。
ただの偏食娘ではなく、単においしくないから食べなかったのだと、
自分を納得させました(違うか…)。

Re: No title

議長さん

> いままで何度も値下げしたのに、一回値上げしただけでマスコミに
「消費者の財布を直撃」と叩かれるのが牛乳。

卵もです…。

Re: 山地酪農

H2さん

> 乳牛一頭に草地1ヘクタールですか。
> 放し飼いでいいなら、土地自体は結構あると思うんですよ。

次回にご期待ください。
ご指摘の通りで、意外と障害があれこれあって、うまくいかないんですよねえ…ほんと。

Re: No title

あずきさん

> わたしの誕生日に生まれた「牛のサチコ」は、
> 8歳くらいまで現役だったようですが、さすがにもう引退したかな・・・。

8歳ってけっこう長生きですよねえ…。
しかし8歳で孫がいる…っていうか、ひ孫もいるでしょうし。
引退後はやっぱりドナドナなのでしょうか…。

No title

確かに…。
酪農というと「観光牧場」で植えつけられた風景しか出てきません。
いつだか見学に行った都内の牧場では牧草地がないので
草を買って食べさせていましたがそれは輸入品でした!
牛肉が高いのはこういうわけかーー、と思いました。
アニマル・ウェル・フェア…
恥ずかしながら初めて聞きました。
自分たちがいつも食べているもののこと何も知らないもんです。

Re: No title

nabanaさん

> 酪農というと「観光牧場」で植えつけられた風景しか出てきません。

放牧は推奨されてるらしいですが、今日調べてみたら、
乳牛の85%はつなぎ飼育で、残りの15%がそれ以外の飼い方なのだそうです。
(平成20年度ごろのデータ)

つなぎってのは日がな一日ず~っとつながれてる牛のことです(泣)

> いつだか見学に行った都内の牧場では牧草地がないので
> 草を買って食べさせていましたがそれは輸入品でした!

粗飼料も輸入してるんですよ~。それは乳牛も同じなのです。
飼料自給率はとっても低いのです。

> アニマル・ウェル・フェア…
> 恥ずかしながら初めて聞きました。

日本の畜産農家の前でこの話をすると、怒り出す人がいます。
アメリカやEUでも完璧にできているかって言うと、そうではありません。
でも、大切なことのように思うんだけどなあ…。

以前勉強会に行ったときの資料が見つかったら、
いつか書いてみる予定です。

No title

こんな酪農形態があるなんて知りませんでした。
うまく回れば画期的じゃないですか。
でも確かこの間ほんたべさんの日曜倶楽部でご一緒した方が
耕作放棄地を酪農に使用して云々ということを実践なさっていたような記憶が(曖昧ですみません)。

ネックは値段なんでしょうけど、安けりゃ売れるって時代は過ぎ去ろうとしているように感じてます。
楽観的すぎるかな。

前回の記事のコメント欄でほんたべさんが「乳牛の85%はつなぎ飼育で、残りの15%がそれ以外の飼い方」
って書いてらっしゃったのを読んで「さもありなん」と感じたのは僕だけではないでしょう。
いやむしろ、この日本でつなぎ飼育以外の飼育法がなされている場合もあるなんて方が驚きでした。
わが家の母方の実家がいわゆる「つなぎ飼育」で酪農を今も営んでおり、子供のころはごく頻繁に接していたので、これが当たり前かと思っていましたので。
でも確かに子供のころから「この牛ちゃんたち、どう見ても不幸せだよなー」と感じておりました。

森が良くなって、牛も元気になって、おいしい乳製品がいただければほんとは言うことなしなんですけどねー。
ではでは

No title

書く場所まちがえました。
すんませんっ

Re: No title

Fuさん

こんばんは。

> こんな酪農形態があるなんて知りませんでした。
> うまく回れば画期的じゃないですか。

そうなんですよ。
バンバン売れさえすれば。

> でも確かこの間ほんたべさんの日曜倶楽部でご一緒した方が
> 耕作放棄地を酪農に使用して云々ということを実践なさっていたような記憶が(曖昧ですみません)。

誰だっけ…?
ぶどう畑の下でホルスタイン(オス)を草対策で導入してるとかいう話ではなくて…?


> ネックは値段なんでしょうけど、安けりゃ売れるって時代は過ぎ去ろうとしているように感じてます。

牛乳は日常的な商材なのでどうでしょうか。
お取り寄せなんかでは、いくらでも高いものOK!なんですけど、牛乳は
安くないとイヤ!的なものかもしれないなあと思ったりします。

>
> 前回の記事のコメント欄でほんたべさんが「乳牛の85%はつなぎ飼育で、残りの15%がそれ以外の飼い方」
> って書いてらっしゃったのを読んで「さもありなん」と感じたのは僕だけではないでしょう。

Fuさん、世の人々は牛は皆放牧されてると思ってるんですよ。
一日中つながれてて、運動場に時々出してもらうなんて思ってないんですよ。

牛が身近にいないので、皆知らないのです。
北海道の広大な草地で、草食べて幸せにくらしてると思ってるのです。
(というか、思いたいのかも)

> 森が良くなって、牛も元気になって、おいしい乳製品がいただければほんとは言うことなしなんですけどねー。

そうなんですよね。いずれ穀物の輸入ができなくなったら、
そこいら中に牛が放牧される…なんて日が来るかもしれませんね。

穀物は今後上がることはあっても、たぶん劇的には下がらないでしょうから、
輸入穀物がなくなったら日本の畜産はアウトです。
そうなって初めて(というか再び)、幸せな畜産が可能になるのかも。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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