中山間地の理想の酪農「山地酪農」のこと

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島根県木次町にある木次乳業の放牧場「日登牧場」。
山陰地方によくある丸っこい山全体が牧場になっており、ブラウンスイスが放されています。



2006年の夏、生産調整という名目で牛乳が大量廃棄されました。

大量廃棄ですから当然、牛の数を減らせというお達しも出ました。
北海道で捨てられる牛乳の映像を見ましたが、つらいものでした。
酪農家の気持ちはいかばかりだったか。想像もできません。

しかしその翌年のことでございます。バターがないと大騒ぎになりました。
かなり大騒ぎしてたので、記憶にある方も多いのでは。

バター不足の理由はその前年の生産調整。
牛と牛乳が減ったから。当たり前の話でした。

牛乳は腐りやすく生産調整が非常に難しい食物ですから、
余剰対策として、2007年、北海道にでかいチーズ工場が3つできました。
雪印、森永、明治乳業の新工場は、2007年度中に稼働をし、
チーズの生産量が約2倍に増えたのでした。

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木次乳業の育成牛だけの牧場。これも山全体が牧場になってます。
木次乳業の場合は山のシバを食べさせるのではなく、牧草の種をまいています。
牛の蹄で耕した後牧草が定着するのに少し時間がかかるみたいでした。



ひょっとしたらこれ、バター不足に関係したかもね。
そのあたりは不明です。

ちなみに、チーズの自給率は非常に低く、2010年で19%。
需要が増えているので、自給率はあまり伸びていませんが、
最近、スーパーで国産のナチュラルチーズをよく見かけます。

チーズの自給は国の政策。チーズ工場およびチーズ工房の増加により、
少しずつ自給率が上がっています。それはそれでよし、すばらしい。
なんつったってわたくし、チーズが大好きですから。

さて、2007年は、穀物飼料が高騰し始めた年でもありました。
それまで全然上がらなかった乳価が、少しだけ上がりました。
その後も2年間上がり続けています。

穀物の高騰は2007年から始まり2009年にピークを迎え、
その後もしばらく続いています。原因は旱魃による大不作および、
バイオエタノール需要の増大など。ロシアでは輸出制限も行われました。

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牛の蹄あと。1トンにもなる牛がドシドシと地面を踏み固めるのですから、
でこぼこの土地が平地になるなんてすぐ。これは「蹄耕法」と呼ばれます。
文字通り、牛が蹄で耕してくれる方法。「なるほど~」ですね!



この間、飼料価格の高騰で、中規模の酪農家が次々に廃業しました。
乳価が上がんないのに餌代が上がれば立ちいかなくなるのは当然。
穀物価格が上がれば、牛乳も卵も肉も何もかも価格が上がるのです。

穀物自給率27%(飼料用含)、飼料自給率25%の日本の将来。
(穀物のみの飼料自給率は11%。粗飼料は78%。草、輸入してるのよね)
相当ヤバイでしょう。

でもね。牛はそもそも反芻動物なのだから、草でいいじゃないか。
草を食べさせてミルクを出してもらえばいいじゃん。
草、山にたくさん生えてるでしょう。なんて思いますよねえ。

日本では、平たい土地には全て米が植わっていますから、
平地で酪農(放牧)をするのは難しい。農家は米が無理なら麦作るから。
平地における酪農の優先順位はとても低いわけです。

しかし、広大な平地の牧場じゃなくても、山間地なら余っています。
何しろ国土の70%が山林。いくらでもOK! じゃあどうやって使うの?

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大変わかりやすい、使用前・使用後の山地酪農牧場。牧場の向こうが山林です。
これはまだ作ってる最中。木を切り出して牛を放しているうちに、
地面が平らになっていきます。牛に食べられ下草がどんどん無くなります。

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もうひとつ。これは「森林酪農」。森の中で牛を放牧します。
今はもう閉鎖されたこの牧場は那須にありました。手前が牛の入れない他人の土地。
向こうが牧場。牛が下草を全部食べ丸坊主になっています。木が細っこいのは
全く手入れをされてない荒れた森だったから。間伐して牛を数頭放しただけでこの効果。
牛の食欲ってスゴイんですね~。



それが、中山間地をいかした日本型の酪農「山地酪農(やまちらくのう)」なのです。

山林の木をある程度切り出してから牛を放し、牛の力で土地を耕し、
牛に牧場を作ってもらうのです。牛は草をどんどん食べ、力強い蹄で、
でこぼこの土地を平らにならします。いつの間にか牧場が生まれます。

猶原 恭爾(なおはら きょうじ)博士が提唱したこの方法、
北海道の斎藤牧場、島根県の木次乳業などで実践されています。
最近では、岩手県の中洞牧場が復活したらしいです。
六本木に直営店ができていました。牛はいつから飼うのかしら。

牧場によって微妙にやり方が違うような気がしますが
おおむねあっさりとした草っぽい味の牛乳が生産されています。

とってもおいしいし、思想としても素晴らしいんだけど、
チョー付加価値商品なので、一般ピープルはほとんど知りません。

とりあえず、ネックはただひとつ。価格が高いのです。

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間伐し、下草を牛が食べた後、お日様が入るようになった地面から、
新しい芽が出ています。牛たちは森林の再生にも一役買っているのです。
人間が必要ないものを食べて乳が搾れるなんて、素晴らしいっすね!



高すぎて、毎日がぶがぶ飲むってなイメージではありません。

草だけ食べてると、ホルスタインでは乳量は3000~4000リットル、
ジャージーで2000~3000リットル弱まで減ります。
一般の半分から1/3の乳量ですから、お高くなるのは当然。

山の中で放牧され、あちこちのびのびと自由に振舞い駆けまわり、
人が来ればみんなで「わーい!わーい!」と見物に行き、
好き勝手に草を食べて、1日1回か2回、乳が出るから山を下って
おいしいおやつを食べ、搾乳が終わったらまた山に帰る牛。

ある意味、山地酪農の牛は、乳牛の理想の生活を送っています。
一般の牛の飼育方法を知ると、こうあるべきという姿です。

価格の安定のため、国民が牛乳をたらふく飲めるようになるため、
大規模・効率化が図られてきた日本型の酪農。それはそれでよし。

だってみんな背も高くなったし、栄養状態も良くなったからね。

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わたくしが今まで飲んだ牛乳の中で一番おいしいと思った牛乳「森林ノ牛乳」。
ジャージーちゃんの乳はラベルが緑。震災後森林の牧場は閉鎖されたらしいので、
もうどこにも売っていません。500mlで600円位。お高いですよね。
でももう一回飲みたい。ほんとに幸せな味でした。



でも生産調整しなくちゃいけないほど需要が減ってるのなら、
一年に一頭が8000リットルも出す必要ないんじゃないかと思うわけ。
だけどそれじゃあ効率が悪いから、やっぱり8000リットルなんだよね。
ああ、どうしたらいいのかわからない。

しかし、今回これを書くにあたり、いろいろと調べているうちに、
牛乳は飲めないわたくしにも、ひとつだけできることを発見しました。

輸入チーズじゃなくて、国産チーズを食べることです。
脇をしめ、えぐりこむようにチーズは国産を食うべし!

本日今から、ブリーやミモレットはあきらめることにします(泣)


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No title

こんにちは。
牛乳にしても、卵にしても、
店頭価格が先にある事が問題の一つだと思います。
これは、食料廃棄率世界一の日本だから起きるんでしょうね。

牛乳を飲まなくても
サプリメントなどで手軽に栄養が補給できる事
コーヒー・清涼飲料水・スポーツドリンクなどが手に入る事
大規模化と効率化を政策として推し進められて、
挙句の果てに乳価暴落ですから
酪農家はたまった物ではありません。

山地酪農は、良い方向だと思います。
近所の元酪農家の高校生の男の人が、
「もう一度、山地酪農で美味しい牛乳を作りたい!」
と話していました。
飲んでみたいと思います!

以前のほんたべさんの記事で
卵について書かれていた事がありましたが、
それ以来、地元の平飼いの卵を買うようになりました。
10個300円以上の卵ですが、美味しいと感じます。

ほんたべさんがおっしゃる「生産者と消費者の距離」
生産物の正しい価値が伝わらない事が一番の問題でしょうね。

何十万もする薄型テレビや何百万もするハイブリッドカーが、
補助金で飛ぶように売れるのに
野菜や畜産物や魚介類は、少し値上げになると高騰と言われる。
前者はなくても生きていけるが、後者はなくては生きていけません。
モノの価値が見直されると良いです。
そうなるように一生懸命野菜を作って、知り合いに届けようと思います。

No title

やった、遂に出た草の神様・猶原 恭爾先生。
実は小官の居る岡山県高梁市出身です。そのわりに当地はあまり山地酪農(畜産)が盛んではありませんが。

Re: No title

スナフキンさん

こんばんは。


> 店頭価格が先にある事が問題の一つだと思います。
> これは、食料廃棄率世界一の日本だから起きるんでしょうね。

売値ありきで引き取り価格が決まってるような気がしますよねえ。
卵と牛乳。肉はちょっと違うような気がするけど。

牛乳は生乳以外、チーズ用やクリーム用などに、
補助金が出ているのを知り、少し驚きました。
飼料米とか、大豆や小麦作ると補助金が出ますが、そんな感じです。


> 近所の元酪農家の高校生の男の人が、
> 「もう一度、山地酪農で美味しい牛乳を作りたい!」
> と話していました。
> 飲んでみたいと思います!

今回山地酪農のことを書くにあたり知ってる牧場を検索したのですが、
すでに閉鎖されてました。
山地酪農でチョー有名だった岩手の中洞牧場も、
一度閉鎖して森林の牧場を手伝ってたと聞いてました(復活したみたいですが)

山地酪農は理想の方法だけど、売り先や価格などの問題もいろいろとあり、
継続が難しいのかなあと思ったりしています。

>
> ほんたべさんがおっしゃる「生産者と消費者の距離」
> 生産物の正しい価値が伝わらない事が一番の問題でしょうね。
>
ていねいに作るとお金がかかるもんだってことを、
食べ物に当てはめるのが難しいのかもしれませんねえ…。

八百屋さんみたいに、相対で販売すれば少しは伝わるのに。

スーパーじゃなくて、直売所でもなくて、うるさいおっさんのいる八百屋復活!が
現場の話が伝わるには、一番効果的かもしれませんね。

Re: No title

議長さん

> やった、遂に出た草の神様・猶原 恭爾先生。
> 実は小官の居る岡山県高梁市出身です。そのわりに当地はあまり山地酪農(畜産)が盛んではありませんが。

猶原さんは岡山県の出身だったのですかあ。
岡山・鳥取の県境付近って、中山間地を絵に描いたようなところですもんね。
すごく理にかなったすばらしいシステムだと思います、山地酪農。

ところで、木次乳業さんの提携牧場が岡山県にあったような気がしましたが、
そこは山地酪農だったと思うけど、もうなくなっちゃったのでしょうか?

No title

岡山でなく広島では? 
たしか、広島の庄原市内の山中にあったような?

山地酪農の経営面

これだけを読むと、飼料を買わなくていいし(冬用の蓄えは必要)、
餌やりや牛舎の世話の手間も省けるし、
多少乳量が減っても割に合うように思えてしまいます。

山地酪農があまり広がらない理由とか、
コスト構造がどう違うかなどへの言及を期待したいところです。
そこから、どうすれば山地酪農が普及するかが見えてくると思うので。

Re: No title

議長さん

> 岡山でなく広島では? 
> たしか、広島の庄原市内の山中にあったような?

あっ、そうでした。
島根から連れてってもらったんでした。
帰りに石見銀山とかにも連れてってもらったんでした。

Re: 山地酪農の経営面

H2さん

> これだけを読むと、飼料を買わなくていいし(冬用の蓄えは必要)、
> 餌やりや牛舎の世話の手間も省けるし、
> 多少乳量が減っても割に合うように思えてしまいます。

そうですよねえ。
そう思えるかも。

自分の山に離して究極の放牧!って感じならいいのかもしれないけど。
それで、その牛乳は自家消費!ならいいかもしれないけど。

付加価値商品とせず、既存のメーカーに出荷するという選択肢もありますが、
山地酪農の牛乳ってことで、付加価値商品として売りたいですよね。

たぶん乳業メーカーと酪農家は契約で生産すると思うので、餌などの指定があるはずだと思います。
それを使わないってことは独自のミルクプラントを作るか、
そういうことをやってるメーカーと結びつくかの二つしかないと思います。

さらに、付加価値商品の売り先を見つけること。
余剰が出た場合の加工乳にする設備と商品化。
(チーズにするとかアイスクリームにするとか)
などなどで、けっこう大変だと思うのです。

あと、草ばっかり食べてると乳脂肪率が下がり、
乳等省令で定められている「牛乳」として売れなくなったりするそうです。
こういうことがあると、既存のメーカーには対応できないです。
また山地酪農の牛乳は味が違うので、そのへんも難しいところです。

搾乳のときおやつとして穀物をちょびっと食べさせる人がいるのですが、
その穀物は当然非遺伝子組み換え作物を使いたいですよねえ。付加価値の意味なくなるもん。
非遺伝子組み換え作物は、通常の穀物飼料の1.5倍くらいするそうです。

現在の乳価をWEBで調べてみましたが、北海道以外でkg100円位でした(2010年くらいの数字)。
これは
3000リットル位で考えてみるといいかもしれません。
コストとかは農水省のHPに出ていました。

あとこの本を読むといいかもしれません。

「幸せな牛からおいしい牛乳」
中洞 正 (著)
中洞牧場の中洞さんが山地酪農と現在の酪農についてのことを、非常に詳細に書かれています。

つなぎで飼われているホルスタインを急に山に放しても、山を登れなくなっているそうです。
山地酪農をするには子牛から放牧してないとだめだとか書いてあります。

Re: 山地酪農の経営面

ミルクを絞るだけではダメ、ということですよね。

近くの直売所で絞りたての牛乳を売る、
アイス、バター、チーズ、菓子類などに加工して付加価値をつけて売る。
飼育の手が少し空く分、労力をそっちにまわせますね。

GMについては少し勉強したことがあって、
GMだからダメ、非GM品種は全く問題なし、とは思いませんが、
GMについてはまたの機会に譲るとして、
飼料は買うのではなくて、餌用の穀類は田を借りて自分で生産すればいいですね。

マルシェで知り合った若い同世代の農業生産者さんが、
自分で勉強していろいろやる(ことが楽しいと思える)人じゃないと向かない、
って言ってました。
マルシェでのPOPをつくったりするのだって本業の一部ということですね。
農業だけでなく、独立起業全般に言えることだと思いますが。

思うんですけども、昔にくらべて、
安定的に給料をもらって生活したいという人が増えた、
自分で挑戦して何かしようという人が減った、
というだけなんじゃないですかねぇ。

紹介していただいた本、ブックマークしておきました。
いつ入手する順番が回ってくるかはまだわかりませんが。

そうそう、実家の近所だと、肉牛の肥育農家はポツポツありましたけど、
牛舎はありつつも、裏山や休耕田で遊べるようになってましたよ。
乳牛と肉牛とではまたいろいろ違うんでしょうけども。

Re: Re: 山地酪農の経営面

H2さん

> 近くの直売所で絞りたての牛乳を売る、
> アイス、バター、チーズ、菓子類などに加工して付加価値をつけて売る。


そうなんす。牛乳作ってるだけじゃダメなんす。

> 思うんですけども、昔にくらべて、
> 安定的に給料をもらって生活したいという人が増えた、
> 自分で挑戦して何かしようという人が減った、
> というだけなんじゃないですかねぇ。

そうかもしれませんねえ。

> そうそう、実家の近所だと、肉牛の肥育農家はポツポツありましたけど、
> 牛舎はありつつも、裏山や休耕田で遊べるようになってましたよ。

育成牛ではなく?
乳牛も育成牛はけっこう広いところで遊んでる風です。

動いたら筋肉が発達してせっかく入れたサシが無くなるような気がするんですが。
肥育期間に入ったら多少の運動はOKでも、放牧はしてないんじゃないかなあ。
このあたり、私は短角牛のことしか知らないので、自信ないっす。

育成牛

>育成牛ではなく?
>乳牛も育成牛はけっこう広いところで遊んでる風です。

あぁ、肥育と育成は違うのですか。そこまで詳しくないので。
調べてみたら違うみたいですね。意図していたのは育成のようです。
子牛を食肉になるまで育てる農家さんです。
近くには牧草地の秋吉台があるので、
周辺の畜産農家さんは牧草には困らないようです。

Re: 育成牛

> あぁ、肥育と育成は違うのですか。そこまで詳しくないので。

牛の場合、生まれてから子牛市場に出るまでを担当している「繁殖農家」と、
子牛を市場で飼って出荷まで育てる「肥育農家」の2通りがあります。

繁殖・肥育一貫生産している農家もいます。

子牛を市場で買ってきて、肥育まで何カ月あるかわかんないのですが、
その間は「育成牛」と呼ぶのだと思います。
肥育は肉を作っていく段階。たぶん餌もサシの入る肉質用に変わります。
出荷1年位前の期間のことじゃなかったかな。

乳牛の場合も最初の種付けまでは育成牛と呼ばれます。

No title

高知で山地酪農をしている斉藤牧場です。

牛乳で身長は伸びません
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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