価格では計れない農業の多面的役割

040809キャベツ畑のアマガエル1
畑に行くとフツーに見かけるアマガエル。わたくしの住まう世田谷区近辺では
めったに見かけることがありません。オタマジャクシが育つには水場がないとダメ。
近くに田んぼがある地域には、地面からわくようにアマガエルが生まれています。
ところでこれ、アマガエルかなあ…? もしかしてシュレーゲルアオガエル?
写真提供・市川泰仙



「TPPに参加したらこうなるわよ」という農水省の試算に
「農業の多面的機能の喪失額3兆7千億円程度」とありましたよ。

あまりにもさらっと書いてあるので、見過ごすとこでした。

農業の多面的機能とはいったい何のことでしょう。
それは主に田んぼで稲が栽培されていることで機能するもの

田んぼが失われれば無くなってしまうもの。

現在当たり前のように私たちが享受している利益。
それが農業の多面的機能なのでございます。

日本の稲作は米を生産する以外に大切な役割があるのでした。

R0013017_20120323123419.jpg
たとえばこのハチ。アブラバチというアブラムシの天敵ですが、
日本には約200種ほどいて、天敵の研究者が同定するのに四苦八苦するほどだそうです。
よその国にはこんなにいない。日本という国は生物がとてもたくさんいる非常に稀な国。
この多様性を人知れず守っているのが「農業」という仕事なのです。写真提供・市川泰仙



瑞穂の国・日本と言われるほど、
私たちの国は、豊かな水に恵まれておりますね。

蛇口をひねればそのまま飲める水が出てくる。
よその国から見ると大変すばらしいことでございます。

わたくしの故郷、最近SBのCMで一躍メジャーになった(ってないか)
鳥取県東部地方では、浄水器などは全く必要なく、
それはそれはおいしい水道水が味わえます。

豊富でおいしい。それが日本の水。

田んぼはこの水資源の保全と重要な関わりがあるのです。

田んぼに水が張られるのは、早いところで4月。遅くて6月。
米の栽培期間中、水田は豊富な水を湛えています。
あぜはしっかりと水漏れを防ぎ、管理がきちんとなされます。

代掻き
来月には田植えが始まりますね。穀倉地帯では見渡す限り田んぼという
風景も珍しくありません。中山間地から平野まで、水があるところは日本では
ほとんどの土地が田んぼ。そこにどれだけの水が蓄えられるか。まさにダムです。



この間の田んぼ、実は日本全国で何億リットルもの水を貯め、
一種のダムのような役割を担っています。

上流に田んぼがある地域では、ない地域と比較して、
大雨の際の河川の増水量が少ないという研究結果があります。
一時的に水をため、水量の調整をしているのですね。

また、田んぼの水に有害な物質が多少含まれていても、
微生物や稲が分解・吸収し
最終的には浄化されて地下水となります。

田んぼは私たちが利用する水を保全・管理してくれているのです。

さらにもうひとつ。素晴らしい役割があります。
田んぼから生まれる生物の多さから、
水田は「生命のゆりかご」という誰にもできない役割を担っています。

たとえば「冬季湛水田」。

田んぼの蜘蛛 おきたま0607
農薬に弱いけど昆虫をよく食べてくれる天敵・クモ。嫌いな人が多いけど、
わたくしクモは大切にしております。巣を張るクモよりも徘徊するクモの方が
より昆虫を食べるという研究結果があります。無農薬の田んぼや畑にはたくさんいます。
写真提供・市川泰仙



冬の間は通常水を落とす田んぼに、稲刈り後再度水を張り
春先までその状態にしておく田んぼのことです。

水資源の豊かな土地でしかできないという条件付きの農法ですが、
ラムサール条約に認定された宮城県の蕪栗沼などで行われています。

主たる目的は雑草の抑制なのですが、
冬の間この田んぼは湿地のような機能を持ち、
微生物やイトミミズ、魚類などが生育可能となり、
さらにそれを捕食する水鳥が渡来するようにもなります。

冬季湛水でなくても、無農薬栽培の田んぼからは
さまざまな生きものたちが生まれています。

どこにでも見つけることができるアメンボをはじめ、
カブトエビやホウネンエビ、めったに見つからないタガメ。
ちっちゃなイトミミズや、見つけると「うへえ」と思うヒル、
夏の終わりを感じさせてくれるホタル。
そして凶悪な顔つきのヤゴ。

とんぼ
秋になるとどこからともなく「湧く」ように現れるトンボ。
田んぼから孵化した後は昆虫をとらえながら森や山に向かいます。
これらの昆虫はより大きな生きものの餌になり、生態系の下支えをしています。



このトンボの幼虫は旺盛な食欲で小さな生きものを食べ続け、
秋に羽化し、今度は鳥のエサになります。

田んぼを中心に、豊かな生きものの世界が広がり循環しています。

単に食糧の供給というだけでなく、
日本人の身の回りにたくさんいる小さな生きものを生み出し、
水資源の保全もしてくれる田んぼ。

私たちがごはんをお茶碗何杯か食べるたび、
田んぼの生きものが確実に育まれているのです。

さあ、TPPで外国産米が日本を席巻し稲作が打撃を受けた場合、
この機能が失われることになります。

何億トンと貯められていた水が全部下流に流れ、
梅雨時やゲリラ豪雨で、洪水が起きる可能性が高くなります。
植林ですでに山から貯水の機能が失われつつあるなか、
被害はますます大きくなるでしょう。

カエル
このカエルって、もしかして東京ダルマガエル? 手にツメがないので、
畦がコンクリで固められるといなくなるカエルなのですが、トノサマガエルかな?
トノサマガエル一匹を育てるには、お茶碗113杯のごはんが必要なのだそうです。
がんばってごはん食べなくちゃ!(計算方法は最後の注釈をご参照ください)



また、世界でもまれと言われるバリエーション豊かな
昆虫の世界も消滅します。虫マニアには大ショックです。

田植えが終わりキラキラと水面が輝いている田んぼ、
青々とした稲が風にゆれ、さらさらとなびいている、
稲が黄金色に実り、アキアカネが飛んでいる、そんな風景。

どこか懐かしい、日本人のDNAに組み込まれている風景も、
見ることができなくなるでしょう。景観も失われるのです。

収穫を占う、また、祝う、稲作を発祥とした地域のお祭も
田んぼが無くなれば、意味を失うかもしれません。

ホタル、トンボ、ちいさなカエルたち、水鳥、用水路の小魚、
小さな生きものたちが生まれ続けている世界。
今、あることが当たり前だと思っている豊かな世界。

それがなくなるとしたら。

画像 002
毎日なんとなく食べてるごはんですが、3日に一度一人一杯おかわりすると、
日本人の米の消費量が1割UPすると大潟村の米農家が言ってましたです。
お昼ごはんをパンからごはんにするだけで、日本の米を守ることにもなるのです。



農業を語る際、こういった機能が語られることはまずありません。
それはまだ、私たちの世界から農業が失われていないからです。
当たり前すぎて気付いていないのです。

食べものの価値を価格だけで計ると見えてこない農業の役割。

単に食料を供給するための産業と認識していると、
これをを見逃すことになります。

失ってから気づくのでは遅いのです。

国産米を食べることは、私たちが思ってる以上に大切なんですよ。
なにしろ、アマガエル一匹育てるには、
ごはんが67杯も必要なのですからね。(※)
(※)ごはん一杯=米粒3000~4000粒=稲3株=0.15㎡
NPO法人「食と自然の研究所」田んぼの生きもの下敷きより


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No title

こんばんは。
大切な話しですよね。

政治家も経済評論家も
目に見える数字しか見てない気がします。

牛乳余剰の時もそうでしたが、
畜産や農業が工場の生産物の様に
簡単に増やしたり減らしたり
生産調整できると思っているのでしょうか?
失ってからでは遅い事
気づいて欲しいですね。

私は、就農前の職場仲間を畑に読んでは、
農業について語る事にしています。

Re: No title

スナフキンさん

こんばんは。

> 政治家も経済評論家も
> 目に見える数字しか見てない気がします。

不思議ですよねえ。でもそれが一般の人々の感覚なのかも。
あって当たり前だから気付かないのです。
それが日本人なのかもしれないなあと思ったりしています。

> 失ってからでは遅い事
> 気づいて欲しいですね。

いい例がホタルで、いなくなってから皆が「ヤバイ!」と気が付き、
よそから導入し「ホタル」を売り物にしたりしてますよね。
そうなる前に気付いてほしいです。
>
> 私は、就農前の職場仲間を畑に読んでは、
> 農業について語る事にしています。

がんばってください。農業を守ろうとする人は、
それぞれができることを、精一杯する必要があると思っています。

No title

ほんたべさんこんにちは。

農地を大事にすることが食料のみならず環境の安全保障そのものなんですね。

失ってからじゃないと気づかない、気づこうとしないっていうのは日本人のとっても悪いところなんじゃないかなと感じることが多いです。それが単に想像力の欠如に由来するのか、あり余る自然の贈与の恩恵に生まれたときからどっぷりと浸かりすぎていて無感覚になってしまってるからなのかは分かりませんが。

今ある、でも失われつつある生態系をそのままにとどめるために努力するいうのと、片やすでに失われてしまったものを取り戻すということの両方が大事なのかなと思うんですが、僕はどちらかといえば後者、生きものがほとんど住めなくなってしまった場所にどうやったらまた戻ってきてくれるのか、枯渇しちゃった贈与をほんの少しでも回復できるのかってほうに関心があって日々いらんことしてるってことなんでしょうね。

今回の記事も教えられるところ大でした。
ちなみにいちばん上のカエルはニホンアマガエルで間違いないようですね(目の前と後ろにカブキ役者みたいな模様があるのがアマガエルと理解してます)。トノサマガエルとダルマガエルを見分ける目は僕にはありません。

ではでは

Re: No title

Fuさん

こんばんは。
>
> 農地を大事にすることが食料のみならず環境の安全保障そのものなんですね。

そうなんですよね!
農水省もチャラっと書かないで、がっつり説明してくれればいいのに。

> 生きものがほとんど住めなくなってしまった場所にどうやったらまた戻ってきてくれるのか、枯渇しちゃった贈与をほんの少しでも回復できるのかってほうに関心があって日々いらんことしてるってことなんでしょうね。
>

今あるものを守るのはそれほどお金がかかりませんが、
失ったものを再生するのは大変なお金がかかりますよね。

新規顧客を獲得するより、現在の顧客を大切にして
やめさせない方が経費かからないみたいな。

3兆円という多面的機能の損失額は、
年を追うごとに積み上げられていくような気がします。
単年度の損失ではないですよね~。早く気付け!日本人!

> ちなみにいちばん上のカエルはニホンアマガエルで間違いないようですね

やっぱりそうか…。
歌舞伎役者の黒線がハレて飛んでるので、もしかして!と思ったんだけど。
シュレーゲルガエル、一度しか見たことないので。

ダルマガエルはツメではなく吸盤がない…だったような気がします。
これも一度しか見たことありませんです。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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