果樹類の無農薬栽培は可能か?

桃の花10
4月上旬に咲く桃の花。樹の皮などで越冬した細菌は、すでに動き始めています。
桃の果実を腐らせる灰星病は、この花の残骸から果実に感染するのです。
■写真提供・市川奏仙



りんごや梨など、冬になると葉っぱを全部落っことして、
春に新芽をふき新たな生育を始める作物。
これらは「落葉果樹」と呼ばれ、無農薬(※注)で栽培するのが難しいと言われています。

とくに難しいのが、桃、りんご、洋ナシ、梨。

花が咲いてから収穫まで、果実が樹についている期間が長く、
そのぶん害虫や病気などの影響を受ける時間が長いことが理由にあげられます。

たとえば、9月上旬に出荷される早生りんご「つがる」や「さんさ」なら、
なんとか農薬は一切散布しないでできるかもしれないとりんご農家は言います。

「でもさあ、市場出荷できるようなきれいなりんごはひとつもできないよ。
それに収量も減っちゃうし。
無農薬で作った見た目の悪いりんごをさあ、一個1000円で買ってくれる? 無理でしょ?
食べる人にも作る人にも、それは現実的じゃないと思うよね」

一度早生りんごの「さんさ」を、資材だけで試験的に無農薬栽培してみた農家が
しみじみと言っていました。


R0012498.jpg
りんごの果実を腐らせるタンソ病(人間に感染するものとは違います)。
この病気にとくに弱い品種があり、そういう品種は淘汰されていきます。
おいしくても作りにくければ農家は作らない…そういうものなのですね。



彼の言うとおり、9月出荷の早生りんごなら無農薬でできるかもしれないけど、
11月中旬に収穫するふじを無農薬で栽培するのは、おそらく難しいでしょう。

9月から11月までの2カ月の間、害虫の世代交代が一回はあり、
雨でも降れば、果実についた病気が繁殖し、どんどん進みます。

畑作では、土壌バランスが整っていればある程度の病害虫防止はできますが、
樹の皮や枝で菌や虫が越冬する果樹では、土づくりだけではどうしようもない部分があります。

そもそもの原産地が冷涼で乾燥した土地柄の落葉果樹類を、
高温多湿の日本で栽培することに、無理があるのかもしれません。


IMG_0322.jpg
りんごのリンモン病。このまま置いておくと真中から胞子が出てきます。ひえ~。
こういう果実は早めに摘み取って廃棄処分。胞子が飛んで他の果実に感染するからです。



さて、一般的に果樹農家は、県の普及所などで考えた防除暦どおりに農薬を散布しています。
通常はこの防除暦どおりに農薬を散布していれば、
病害虫の被害をそれほど受けずにくだものが作れる…それが防除暦です。

では農薬を減らしている人たちはどうしているのでしょう。

彼らは、自分の畑に昨年いた害虫、発生した病気などの詳しい記憶を持っています。
それをもとに、独自の農薬体系を作り、日々観察をしながら散布時期を決めています。

特別栽培農産物のように、一般の半分の農薬でくだものを栽培するには、
病害虫の発生タイミングにバッチリ合わせて農薬を散布することが必要になるため、
畑にもまめに通って観察しなくてはなりません

「おいしいくだものを作るにはあなたの足音を聞かせること」と言われるほど、
畑に通う回数は、作るくだものの味にも影響するものです。


R0012849.jpg
殻をかぶっているので農薬が効きづらい害虫「カイガラムシ」。
防除暦には5月ごろに農薬をまけ!と書いてありますが、5月にずっとこの殻を観察していると
ある日、繁殖のため殻から出てくるタイミングがあります。
そのタイミングをきちんと見て農薬を散布しないと、後日もう一度まくはめになります。
これが必要とされる「観察力」。■写真提供・市川奏仙


IMG_0364.jpg
りんごを半分に切ると芯のあたりにカビが生えていることがあります。
これがシンカビ病。写真はシンカビが浸潤したもので、こういうシンカビは真中から腐ります。
ちょびっとカビが生えてるだけなので芯を取ればいいだけなのですが、
シンカビの出やすい品種は淘汰品種としてじょじょに減ってきています。
北斗とか、新世界とか…おいしいんですけどねえ…。



また、彼らに共通しているのは、剪定の技術が高いこと。
風通しをよくし、すべての葉にお日様があたるような樹形を作るには、
2年後、3年後の樹の形を想像する能力も必要です。

手間暇かかっているからこそ、また技術があるからこそ、
この人たちの作るくだものはおいしい…そんな風に思います。

でもなぜか低農薬栽培はあまり広がっていきませんね。

それは、その作物が再生産可能な価格で販売できないことが大きく影響しています。

明日どうなるかわからないような状況では、
農家は手間のかかる低農薬栽培には挑戦できないのです。

日本では、野菜もくだものも、市況によって価格が左右します。
つまり、作物が完成するまで価格がわからないということですね。
毎月固定の給与をもらえるサラリーマンには考えられない現実です。

そんな状況では、リスクの高い低農薬栽培になかなか挑戦できないのも当然という気がします。


落果
まだ収穫時期じゃないのですが、病気にかかっているものを落とした状態。
これはラ・フランス。全部捨てることになるのですが、せつないですね。
きっちり農薬をまいておけばこんなにロスは出ませんから、
低農薬栽培というのは収量が減るというリスクを背負わねばならないのです。



昭和30年代には、りんごは3反作れば一年食べていけるという儲かる作物でした。

昔は高価なものが多くて、食べられないくだものだってありましたから、
そう思うと、消費者にとっては、安くなるのはとってもうれしいこと。

でも「安ければ安いほどいい」というその風潮が、
農家は儲からないから後を継がせたくないと後継者不足につながり
農薬と化学肥料に依存した果樹栽培を継続させていることも事実。

食べものの価値が「おいしさ」や「安全性」よりも「価格」におかれている間は
低農薬栽培のくだもの(野菜も同じですけど)は、
一部の人たちのためのものでしかないのかなと思ったりします。

食べものは命を作るものだから、安全なもの、おいしいものを。
そんな風に思うのですが、まだ世の中はそう思っていないのだなあ…。

果樹類の農薬について考えるたび、いつも少し悲しくなります。



(※注)有機JAS認証を取得したりんごやぶどうは割合とあるようです。
有機JAS認証は、石灰ボルドーや石灰硫黄合剤などの農薬を使用することが可能なため、
「無農薬栽培」ではありません。
ここで言う「無農薬」とは、自家製の忌避剤などを利用していても、
一切の登録農薬を使用しない場合のことを言っています。


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梨農園のこと

大変興味深い文章を読ませていただき、ありがとうございます。

農薬の危険性については、農家も消費者も触れたくないことのようですね。

昔、近くの梨農家に行ったとき、果樹園に建つ小屋の脇には、コンクリートで出来た攪拌槽に、青白い農薬がたくさん作られて、梨の木の色が変わるほどまかれていました。

そして、その農家の子供の足が奇形で曲がっていたことも、今だにおぼえています。

Re: 梨農園のこと

Corbさん

ご訪問ありがとうございます。

おそらくその農薬は石灰ボルドーではないかと思います。
果樹農家の基本的な殺菌剤ですね。

梨は病気に弱いため、
新しい枝が出てきたらそこに農薬をまいてやらないと、
病気で実がつかなくなると以前梨農家に聞きました。

その間隔が1週間~10日。
福島の防除暦で40剤ですから、農家にとってもかなりの負担だと思います。

低農薬栽培は、技術が相当ないとできないものですから、
地域に誰か指導者がいないと難しいかもしれませんね。

No title

ほんたべさん、こんにちは。
写真のような病気の果物を見ると、ココロが痛くなります。しっかりと育てられなかった無念さと、害虫、病原菌への怒りです。

無農薬栽培は、果樹園さんにとってコスト面からすると理想なのでしょうけれど、限りなく不可能に近いものなのだと実感させられました。

果樹園さんで思い出したのですが、以前、あるイベントで微生物の研究をなさっている人がいました。その人が係っている土壌改良剤?を見たことがあります。

http://www.ai-1.com/shop/
何かの役に立てばいいのですが・・・

えひめIですね!

駆動さん

情報をありがとうございます!

えひめIは私が畑をしていたときに、トマトやナス、きゅうりによく葉面散布してました。
乳酸菌と納豆菌が葉を覆い、うどんこ病や葉カビなどを寄せ付けない効果があったみたいです。

でもこれ、果樹園に散布するには、ちょっと高いんですよねえ…。

週末長野に行ってきて、りんご農家の話を聞いてきました。
また報告しますね~。


はじめまして

ご訪問、ありがとうございました。

内容のしっかりしたいいブログですね。感心いたしました。
僕は、がん治療のための「食事療法」で
毎日 人参8本とレモン1個、リンゴ2個をジュースにして飲んでいます。
さすがにその消費量だと、農薬の量も気になるので
生協で無農薬又は低農薬のものを中心に購入していますが
農薬がないとどうなるか?などなど、書かれている事も良く解かります。

とは言え、癌を治すためには大量の生野菜と果物が必要だし
農薬は、発癌物質でもあるし…どうすりゃいいの?っていう
板ばさみの迷宮ですが
たとえば、無農薬でさびが出ていても無害なものなら
1個1000円は無理でも150円なら喜んで買いますよ。
(でもきっと150円じゃダメなんでしょうね)

僕はそのほかにも、緑黄色野菜のジュースを毎日500ミリ飲んで
ヨーグルトも200㎜くらいは食べています。

また、いろいろと役に立つ情報を届けてください。

Re: はじめまして

癌ダム4Gさん

ご訪問ありがとうございました。

人参は無農薬のものを探すのは容易ですが、りんごは難しいです。
農薬の残留はりんごの皮に多いので、皮をむいてジュースにすれば多少はいいかしらと思います。

日々のことなので、できるだけ安価なものがいいですよね。
でも、一個150円くらいなら低農薬栽培りんごの正品原価。
これに粗利が乗って250~300円になってしまうんですが…。

ところで、青森県のりんごの慣行栽培の農薬は、成分数で36成分。
(たぶん長野も同じくらい)
この半分で栽培している人はかなりいらっしゃると思います。

今後も農薬についてはいろいろと伝えていきたいと思っています。
よろしくお願いいたします。



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このコメントは管理者の承認待ちです

無農薬梨

私は一本だけ幸水豊水のペアフルーツ栽培しています去年は5個 今年は現在100個ぐらいなっています自宅用で販売しないので虫や病気に対処できています 雨でなければ毎朝虫と病気をチェックし土日に草引きぐらいで消毒や農薬は使ったことがありませんあと一ヶ月で収穫がどれくらいできるか楽しみにしています 難しくはないが病気と虫除けに独自の対処をしています 使うのはハサミ ピンセット 果物ネット 紐 以上です

Re: 無農薬梨

盛田さん、コメントありがとうございます。

無農薬梨、いいですね。
手間と愛情がかかってるのでしょうねー。

収量UP、がんばってください。

No title

今年は無農薬で幸水 豊水が約120個なり良い物が50個以上収穫できました虫や傷みで約半分やられましたが一部を取り除き美味しくいただけました 幸水の方が傷みやすいのがわかり来年は透明の袋を半分くらい掛けてみようかと考えています豊水は今年と同じで次は200個を目標にし知り合いにプレゼント予定です 今年は甘太という苗も注文したので2年後を目標にこれも無農薬で栽培してみます

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Re: No title

盛田さん、こんにちは。

> 今年は無農薬で幸水 豊水が約120個なり良い物が50個以上収穫できました虫や傷みで約半分やられましたが一部を取り除き美味しくいただけました 幸水の方が傷みやすいのがわかり来年は透明の袋を半分くらい掛けてみようかと考えています豊水は今年と同じで次は200個を目標にし知り合いにプレゼント予定です 今年は甘太という苗も注文したので2年後を目標にこれも無農薬で栽培してみます


果樹園を自家用でもってらっしゃるのはいいですね。
農薬を散布せずに食べられるのはいいものです。

これからもがんばってください。

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プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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