絶滅危惧種「種ありぶどう」の事実

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種がないから次々に口に入れられる種なしデラ。
セミの声や海水浴の塩っぽい感じ…そんな記憶も含めて、小学校の夏休みの味がします。



種なしデラウェアが店頭に並んでいます。

夏休みの食卓に、種なしデラが置かれていた記憶を持つ人も多いのでは。
種なしデラは庶民派のぶどうとして、昭和の時代から親しまれてきたぶどうです。

実はこのデラウェア、本来は8月下旬に収穫時期を迎えるぶどうでした。
なぜそれが1カ月も早く収穫できるようになったのか。
それはデラを「種なし」にすることができたから。

昔のデラウェアには、種があったのです。

昭和30年代、デラウェアの栽培は非常に難しく、
収穫時期になると実が割れてしまうという性質があるため、量産ができませんでした。
そのデラウェアをうまく作るために「無核果」…つまり種なしにする技術が生まれました。

花が咲いて花粉が出たころ、ジベレリンという植物ホルモン(植物成長調整剤)を
花にちょこっとつけてやります。

ジベレリンを利用して種なしにすることで収穫時期が早まりました。
時期が1カ月早まったことで実が割れる前に収穫できるようになり、
デラウェアは作りやすいぶどうになったのです。

一時期は日本で一番栽培されているぶどうでもあった種なしデラ(今は巨峰)。
この技術により、庶民派のぶどうという不動の地位を手に入れました。

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左はシャインマスカット、右はピオーネ。どちらも種なしを前提に作られた品種。
シャインマスカットは貯蔵が効くため、12月まで食べられるというので、農家の注目を集めています。
酸味はあまりなくてあま~いお砂糖みたいな味。最近流行の味ですよね。



さて、最近ではその他にも、種なしぶどうが数多く店頭に並んでいます。
8月中旬からは種なし巨峰やピオーネ、その後ロザリオビアンコなどが続きます。

種なしぶどうは種を出さなくていいため、消費者には食べやすいと評価されています。
消費者の評価が高いから、増えてきたのかな?

いや、そうではないと思います。
種なしぶどうを作るのは、種ありのぶどうを作るよりも簡単…
つまり、農家の省力化がそもそもの理由なのです。

ぶどうは、冬季の剪定技術がかなり難しいもの。

枝を切り過ぎると翌年花がうまくつかなかったり、樹が暴れたりします。
ぶどうはその年に出た枝に果実がつく作物。剪定の影響がかなり大きいので、
下手な剪定をすると収入にかかわります。

甲州3
切り過ぎると樹が暴れる代表的な品種が「甲州」。ワインの原料に使われます。
最近では甲州の短梢剪定も研究されているらしく、どんな風にするのか興味津々。
ワインの繊細な味からは想像できない暴れん坊、御することができたのでしょうか。
写真提供・市川泰仙



しかししかし。
ホルモン処理をするぶどうの剪定は、すんごく簡単。

枝を切り過ぎても花が咲けばホルモン剤で果実がつくのですから、
プロの農家でなくても剪定が可能になる=パートさんでもできるのです。


ホルモン処理前提の剪定技術を「短梢剪定」と言います。
やり方を一度聞けば誰でもできる、私でもできる、それが短梢剪定。
ぶどう栽培の省力化、それがホルモン処理=種なしぶどうなのでした。

IMG_0718.jpg
ちょっとわかりにくいけど、枝が5節残して切ってあります。
これも短梢剪定の一種。このほか3節残して切るとかいろいろあるみたいです。
農家のおっちゃんの技術の見せ所だった剪定が、みんなのものになったということですね。




また、種なしぶどうが増えている背景には、農家の高齢化もあげられます。

昨今では、どのぶどう産地も高齢化が顕著で、剪定技術の継承が危ぶまれています。
一年に一度しか自分の技術の結果が確認できない果樹類。
退職してから農業に取り組む後継者が多いぶどう農家に、技術を積み上げる余裕などありません。

技術を積み上げる必要のない剪定方法があれば、それでぶどうができれば…。
短梢剪定が多くの農家にとりいれられているのは、そういう現状もあるのでした。

種ありぶどうを作る技術(剪定)が失われる日が近い…ぶどう農家と話すと、いつもその話題になります。

「種なしぶどうより種ありの方がおいしいんだよね」…彼らはいつも言います。
「おいしいぶどうを作る技術がなくなると思うと、残念だよね。
でも今、新品種は全部ジベ処理が前提なのさ。それは時代の趨勢っていうものかもね」

昨今、巨峰も種なしのものが多く見られるようになりました。
巨峰の本当の甘さと味、香りは、種あり巨峰を食べてこそ味わえるもの。

しかし種なしぶどうを食べ慣れてしまうと、気づく機会もありません。
種ありデラは種なしよりも味が濃くて香りもあり、甘さも強いのですが、
今の日本にそれを覚えている人はほとんどいない、それがいい例です。

日本人の味覚から、本当のぶどうの味が失われる日は、すぐそこまで来ています。

ピオーネ
一粒一粒がピンポン玉のように大きなピオーネ。これはホルモン処理のおかげ。
種なしにすること以外に、粒の肥大という目的もあるホルモン処理は、
普通に作ったら絶対にできない大粒ぶどうを作ることもできるようになりました。
ピオーネの他、藤稔などがこの代表的品種です。




店頭で「食べやすい種なしぶどう」と書いてあるのを見るたびに、
山梨県や山形県で、老体に鞭打って剪定している農家の顔が思い浮かびます。

それは時代の流れだからしょうがない…。
ただ、その事実を誰かに知っていてもらいたい…そんなふうに思います。



※9月4日(土) 巨峰の収穫体験を企画しています。
山梨市の巨峰農家が「この前後2~3日が、今年の巨峰が一番おいしい時期!」と言うこの日。
詳細は以下をご覧ください。

http://www.hontabe.com/tour.asp

農家のプロフィール・収穫体験詳細はこちらから
http://www.hontabe.com/img/tour/tour_kyohou.pdf



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なるほど。

はじめまして。オーガニックハーブの店を切り盛りする者です。

種なしブドウの話、たいへん面白く拝読させていただきました。

「ホンモノ」ということ。私のテーマでもあり、共感できる部分が多かったです。

また遊びに来ます。

Re: なるほど。

namiさん

はじめまして。
ご訪問ありがとうございます。

これからも「ほんもの」をテーマにしていきたいと思っとります。
また遊びに来てください。

No title

ほんたべさん、こんばんわ。デラウェア・・・種があったのですね!知らなかったです。種がないのに何で実がつくのか不思議でした。

ホルモン処理のおかげで、いまの食べやすいぶどうへと改良(いや、進化かも?)していったのですねー。食べる側としては、その恩恵に感謝したいと思います。

Re: No title

種ありデラ、食べるとおいしいですよ~。
でも確かに種を出すのは面倒です。
それに、すごく作るのが難しいみたいです。

ぶどう業界全体が「種なし」に移行しつつあるなか、
ほんとにおいしいのは種ありなのにな~と思っている私は少数派。
作ってる農家も少数派。

そのうちぶどうには種がないんだもんねって世の中になるんだろうな。
JAの人とかの話を聞くたび、そう思うことが多くなってきました。

でも種ありぶどうを愛していただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。

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プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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