「あるがまま」のすもものことを書いてみた

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6月中旬から出荷される大石早生。かわいい色合い。市場では、
店持ちの関係上、早採りして味が乗ってないものが売られております。
ほんとにおいしい大石早生を食べたことのある人は少ないんじゃないかなあ。



「奇跡のりんご」が映画になって現在上映中らしい。感動の嵐らしい。
2006年だったかなあ。NHKの「プロフェッショナル」で紹介されたのは。

プロフェッショナル放映後、某D社の消費者から
「なんで某D社は無農薬りんごがないのですか?」と何度も聞かれた。
「無農薬ではりんごは作れません」わたくしはそう返事をした。

某D社の農家に、無農薬りんごに挑戦した人が2人いた。
2人とも、畑には同じことが起きた。
たぶん誰の畑でも同じことが起きる。我慢できるかどうかだ。

最初の一年目はなんとかできる。でも、
その年の病気や虫を叩けないから、翌年に全部持ち越す。
そして、その年のりんごの実は一個も売り物にならない。

どころか、悪くすると葉も落ちる。

そんなりんごを見てると、2年目も無農薬でやる気にはなれない。
2年目はたぶん、持ち越した病気と虫がりんごをさらに攻撃する。

夏までに葉が落ち、樹は慌てて新芽を出す。
そして秋に花を咲かせたりする。なんてことをしていると
樹の生理が狂い、回復するのに何年もかかる。

2年目に農薬をまいても、りんごの状態が元に戻るのに、
それから3年かかったと、一人の農家は言っていた。

彼は、NHkで木村さんのことを知ったとき、
「俺は辛抱が足りなかったなあ」と言った。
「木村さんみたいに我慢できればできたかもしれないなあ」と。

そんなことができる人はたぶんいない。
だから木村さんがすごいのだとわたくしは思う。

りんごの樹が自力で環境に適応するまでの時間、
ありとあらゆることが起きる。それを木村さんは我慢できた。
これは誰にでもできることではないのだ。

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これがJA規格のもぎ時の色合い。まだ地色が抜けてないから、
も少し黄色いかもね。これを常温に置いておけば真っ赤になるのよね。
いかにもおいしそうに見えるのよね。でもおいしくないのよね。

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大石早生もこんな色になるととびきりおいしくなるもんですが、
お店で買う事ができないってのがすももの宿命。残念なことっす。ほんと。
ぎゅっとしまった果肉と香り。すももってこんなにうまかったっけ?と思う瞬間。



10年以上無肥料無農薬ですももを作っている人を知っている。

ソルダムのふくろみ病対策で、石灰硫黄合剤をまいていたけど、
私が担当になった翌年にまくのをやめた。

その後しばらく、すももにはカイガラムシがついていた。
行くたびに樹がくたびれて、ところどころ折れたり、
枯れてしまったりしていた。肥料をやらないから葉が小さい。

農薬をまかないから葉にぽつぽつと穴があいている。

彼はそのうち剪定もやめた。剪定ってのは樹の枝を切り、
自分の思い通りに枝を茂らせ、いい果実を作るために行う作業だ。
果樹農家の腕の見せ所である。

剪定をすることで、伸びていた枝がなくなった樹は
なくなった枝の分の肥料分をどこかに使う。だから、
「剪定は肥料やってるのと同じ」と彼は言った。

当時のわたくしにはわからなかったが、今はわかる。
剪定は施肥といっしょだ。剪定をやめると、樹は
余計な枝を伸ばすことをしなくなり、落ち着いてくる。

畑に行くと草がぼうぼうで、作業の邪魔だから倒すけど刈り取らない。
草は炭素分を供給するが、大した肥料分にはならない。
畑の中で循環させているだけだ。肥料は全くやっていない。

IMG_8886.jpg
何もしないとは言っても売り物ですから、摘果はするのです。
摘果しないとおいしくないから。摘果しないで出荷してる人知ってますが、
それはやっぱり売っちゃダメでしょと思うわけで。趣味ならいいけどね。



炭素分の供給で微生物が増えてるのだろうとは思うが
すももの木はくたくただ。年寄りの樹が時々折れる。

でも、毎年花が咲き、実をならせる。

すももの実はある大きさ以上にはならないから小さくて、
7月下旬以降に熟すすももには虫が入って商品にならない。
それで食べていけるのかなと思うけど、聞かない。

彼には技術がないのではない。

非常に高い技術を持っているのに、それを全く使わず、
樹があるがままでいることをただ見ているだけだ。

ここでこうやるといいだろうなあと思いながら、
そう思う自分がまだまだだなあと思いながら、ただ見ている。

これが「自然農法」である。

木村さんのことを聞くたびに、わたくしは彼のことを思い出す。
無肥料とは、施肥だけでなく、剪定もしないことだ。
無農薬とは、資材を散布しないであるがままを許すことだ。

だが、それができる人はそんなにいない。経営のことを考えれば当然である。

誰も知らない、わたくしだけが知っているほんものの自然農法は、
山梨県で営まれている。


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それでも

 きっと、そうなんでしょう。いくら木村さんの実践が素晴らしくてもおいそれとは模倣できることではない。

 しかし、まったくの門外漢の無責任な希望だと思いますが。 

 いつの日か。もっと安全に穏便に、収入が全く断たれるなんてことのないようなやり方で木村さんのりんご園のような土にたどり着けるようなやり方が生み出されることを切に願います。

 木村さんはパイオニアです。どんな技術でもまずそれを切り開く人がいて、それをより一般化する人が現れるのではないでしょうか。

 もし、それができるならこれは本当に農業の革命になるのではないでしょうか。

 その手がかりのいくぶんかは、例えばあの九州のN農園さんの「ほとんど」農薬を使わない農法の中におぼろげに見えていたりしないのでしょうか。

 N農園さんの桃には本当に衝撃を受けました。皮を剝いてかぶりついた瞬間に生命力に溢れた美味しさというよりも生き物としての歓びが脳天に突き抜けてしばし言葉を失いました。

 「生きてこの桃と出会えて本当によかった。出会えて幸せだ」と感じさせられて胸が熱くなりました。

 孫悟空が天界のしきたりを破ってしまった桃のうまさもかくやと思わせるほどに。
 
 おそらく木村さんやこの自然農法を実践されている方の農業は「上農」どころか、もはや「神農」の領域に到るものなのでしょう。

 言葉で語り得ないものを、かりそめにしても言葉で語らなくては消え去ってしまうというのが、領域は異なっても、現代社会に生きる私たちの宿命なのだと思います。

 科学はけして「神農」の領域に達することはないでしょう。だからといって科学を否定するのではなく、科学と手を携えて、神ならぬ人が実践できる新しい農業を創成していって欲しい。

 「すごい畑のすごい土」の著者が目指していらっしゃるのもそういうところなのではないでしょうか。そういう実践によっておそらく科学自身も変貌していくかも知れない。

 誠に勝手ながら、農業には全く素人の、無責任な願望を述べさせていただきました。

 農業に限らず現代社会の様々な局面で同じような構図があるのだと思います。

 それは僕たちの携わる医療の世界でも同じ事です。社会や生活から切り離された薬物治療は多くの場合確実な効果が期待できるものではありません。

 たとえばメタボ検診で口うるさく指摘される高脂血症。

 総コレステロールが280もあればまず薬を勧められると思いますが、これを5年間毎日内服することによって心筋梗塞を予防できるのは内服した人のうち、極めておおざっぱに(誤解を恐れずに)言えば、たかが500人に一人くらいです。

 5年間でおそらく通院等に180時間とおそらく10万円以上を投資して500人に一人が利益を受ける。これが高脂血症治療の現実なのです。

 確実な投資というよりほとんど博打だと感じませんか?

 人間が健康に健やかに幸福に生きていくその生き方はもっともっと別のところにあると思わざるを得ません。

 そのために新しい農業、医療、そして科学が生まれることを願ってやみません。

 大変、失礼しました。

Re: それでも

高木さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

>  いつの日か。もっと安全に穏便に、収入が全く断たれるなんてことのないようなやり方で木村さんのりんご園のような土にたどり着けるようなやり方が生み出されることを切に願います。

粗大有機物を還元し、微生物層を豊かにすることで、
ある程度実現可能だと思います。
あくまでも、果樹の話ですけど。

その他、見た目が悪いものでも消費者が受け入れるとか、
りんごを1個500円で買ってくれるとか、
そういうことが同時に起こらないと、残念ながら
広がっていかないと思います。

>  もし、それができるならこれは本当に農業の革命になるのではないでしょうか。

実際にはいくつかの再現可能な技術があり、私の知っている限りでは、
錦自然農園さんが実践している道法正徳さんの「切り上げ剪定」や、
栄養周期説、わたくしの師匠の西出式微生物農法などが
それに当たると考えております。

農業技術って、人それぞれにいろんな考え方のもとで
それなりのものを培っていると思います。
それが誰にでもできるかというと決してそうではありません。
精神論でやりぬこう!というのは、自分的には技術ではないと思っております。

>  科学はけして「神農」の領域に達することはないでしょう。だからといって科学を否定するのではなく、科学と手を携えて、神ならぬ人が実践できる新しい農業を創成していって欲しい。

今回ご紹介したすももの生産者は、自分のやってることが
誰にでもできるとは思わないと自覚されています。
それはその作り方が思想であり、生き方だからです。

そのことを、誰かに知っておいて欲しいなあと思ったこともあり、記事を書きました。
福岡正信さんの思想を継いでいる本当の自然農法を実践してる人が
山梨にいることを、紹介しておきたかったのです。

農業に思想はあるべきだと思うけど、
思想=農業技術ではありません。
有機農業や自然農法を実践されている方たちの中には、
思想と技術がごっちゃになっている人が少なくありません。

科学に依存する必要はないと思いますが、
ある部分で利用すべきことはあります。
たとえば土壌分析や堆肥の分析などがそれに当たります。
農薬を防除暦通りにだらだら使わず、要所要所でビシッと効かせ
全体的に少ない農薬でいいものを作るなどもそれに当たります。

>  それは僕たちの携わる医療の世界でも同じ事です。社会や生活から切り離された薬物治療は多くの場合確実な効果が期待できるものではありません。

私は病院も薬も嫌いですが、感染症にかかったら
抗生物質で治療してもらうために病院に行きます。必要な時には使う。
農業においてもそのような考え方でいいのではと思っています。

0か100かではなく、ほどほどが大事なのではないでしょうか。

なるほど

 とても丁寧なお返事をありがとうございます。納得しました。

 農業と医療を比べてみるとよくわかりますね。

 どちらもなるべく農薬や薬に頼らなくても済むように健康な土壤や身体をつくったほうがいいに決まっているけど、いざというときには使う。

 ブログ主様の発信されている情報は現実をよく知らないために観念的になりやすい僕には本当に勉強になります。

 想像するだに、とってもお忙しそうなのに詳しいお返事をいただいて恐縮しつつ感謝しております。これからも無理をなさらず楽しく有益な情報を心待ちにしております。

 
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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