新規就農のりんごづくり―長野県・廣瀬祥寿さん

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廣瀬祥寿さん。栃木県出身。東京でサラリーマン生活後、長野県安曇野市に就農。


2001年の冬、長野県に一人のりんごづくりが生まれました。

それまで全くりんごを栽培したこともなく、親戚や親がいるわけでもない土地で、
一人で5反の畑を借りて始めたりんごづくり。

この土地で知り合った女性と結婚し、家を買い、現在3人の子どもと幸せに暮らす廣瀬さん。
5反から始まったりんごの面積は、今では1.5町。
りんご農家の息子でも難しいりんごの栽培に一から取り組み、
売上もきちんと上げている、その秘訣を聞きました。

「安曇野に通うようになったのは、1998年の秋ごろからだったかな。
りんごの頒布会企画の商品を開発して、その企画のために状況の確認も含めて、
年に数回、土曜日に来て月曜の早朝に長野から会社に行くって生活してました。
もともと農業に興味はあったけど、当時はりんごなんか作れるわけないじゃんって思ってた」

頒布会のりんごは、りんごの世界でとても有名な故・原今朝生さんのグループもの。
この原さんの中生種のりんごを、品種ごとに届けるという企画でした。


RIMG0062.jpg
原今朝生さんのお友達が育種した品種「秋映」。
りんごの頒布会「りんご七会」のスタートを切る品種になりました。
当時は市場にはほとんど出荷されていない珍しい品種でした。




今ではよく見かけるりんごの頒布会ですが、当時はそんなにありませんでした。

特徴は、りんごと一緒に届く、原さんご一家の情報がびっしりと書き込まれたリーフレット。
台風の被害や、日々のことなど、りんご農家の暮らしが書きつづられていました。

このリーフレットを作成するため、安曇野に通っていた廣瀬さん。
2年経った2000年の秋、「ここでりんごを作ってみたらどうだ」と今朝生さんに言われ、
ちょうど5反のりんご畑を貸したいという人が現れました。

原さんという先生はいるにしろ、全く血縁のない土地に引っ越すことや、
農業、それも難しいりんごに挑戦することに、迷いはなかったのでしょうか。

「あんまり迷わなかったというか、実家に帰る気もなかったし、農業は好きだったしで、
まあやってみるか、もう35歳過ぎてるし、やるんなら今しかないって感じで。
ひとり者だったのでどうにでもなるし、それなりに貯金もあったので、大丈夫だろうと」

そう決めたら、あれよあれよと言う間にことが進みました。
2001年の1月に安曇野に引っ越し、2月後半から剪定作業を開始しました。
廣瀬さんのりんごづくりが始まったのです。


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果樹類の農器具は、スピードスプレイヤーは高額で必須アイテムですが、
その他の機械は畑作ほど揃えなくても良かったりします。
草生栽培だと乗用の草刈り機も必需品。これは100万円くらいする性能のいいもの。




「最初の年の売り先は、前職の職場関係の人たちや地元の直売所、
原さんに紹介してもらった人たちとか。
贈答用に贈られた人から翌年注文が来たりして、だんだんお客さんが増えていきました。

昨年の売上は約1,100万円。加工品の経費や出荷用の段ボール代が高くて
利益は400万くらいかな(笑)。

あと、農薬代は36万です。慣行栽培の半分くらいなので、一般よりは安いと思います。
除草剤はまかないけど、草生栽培だから草刈り機のガソリン代もかかります。

りんごの作業は家族だけではムリなので、パートさんを雇いますが、
その経費も相当かかります。税金とかそういったものを引くと、純利益はもう少し少ないです」


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このりんごはシナノドルチェ。長野県期待の早生りんごです。
つがる同様収穫間際に落ちるという性質があるので、全部ネットをかけています。
(ネットの理由は後述)




現在の廣瀬さんのりんごの9割は個人への直送です。

売値が自分でつけられるため、農協に出荷するよりははるかに売り上げはあがります。
もちろん昨年買ってくれた人へのDM送付など、販売促進も怠りません。

また、売れなかったりんごはハイビスカス入り・人参入り・ネクターなどのジュースや、
ジャムやシードルに加工。一昨年からりんご酢を、さらに低温乾燥の干しりんごなども作り、
それらは主に直送販売と、地元の直売所などで売っています。

個人のりんご農家でここまで加工品に凝る人もいないでしょう。
経費がかかるという理由がよくわかります。


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写真左からリンゴネクター、風干しりんご、シードル。風干しりんごは冷風乾燥で乾燥させた干しりんご。
高温乾燥だと酵素が失われてしまうので、酵素をそのまま摂取できるようこだわった一品。
そりゃもう、ものすごくりんごの風味が残っていておいしい干しりんごです。



この怒涛のような商品開発力もさることながら、
本当においしいものを作りたいという執念が半端じゃない廣瀬さん。

その例が「つがる」という収穫直前に落果してしまうりんごです。

落果してしまうので落果防止剤(ホルモン剤)をまくのが普通のりんご農家。
しかし廣瀬さんは、自然に落っこちても大丈夫なよう、ヒモで縛ることを思いつきました。

「最初の年、隣のおじさんが栽培している花卉にホルモン剤がかかると困るって言われて。

隣接部分の一通り、まくのをやめて、ひとつずつヒモでしばったんだよね。
そしたら翌年、去年のは硬かったけど今年のは柔らかいというお客さんもいて、
ホルモン剤をまくと、熟度や進み方が違うことに気がついたんです。

それで落果防止剤をまくのはやめて、つがるを全部ヒモで縛るようになった。
しばらくヒモを使ってたけど、4年前、マンゴーに使うネットを見つけた。
これが再利用できるし、しばんなくていいから簡単だし、とっても便利なんだよね。
それ以来ネットでやってます(笑)。これをつける時間? 1時間平均100個かなあ」


ヒモ
最初のヒモはりんごの樹の誘引ヒモ。これが二代目の紙製ヒモ。
細くて縛りやすいけど雨に弱く、雨の多い年に結べませんでした。
困ってWEBで色々調べ、マンゴーのネットに変更しました。

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りんごにネットをかけて洗濯バサミで枝に固定します。
この洗濯バサミ、安曇野近辺のホームセンターで買い占めても足りなくて
結局メーカーに発注したそうです。でも何度も使えるのでヒモよりはるかにいいとのこと。

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落っこちるとこんな具合にネットにひっかかります。
ネットを付ける時、落ちたりんごが探しやすいよう先端を10センチほど余らせています。
こうなったりんごを拾い採りしていきます。

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「あっ、落ちてる」 ネットに落ちたりんごを毎日見回って採るのも一苦労。
落ちたりんごの数がそろわないと出荷できなかったりもするので、それも大変。
ただ、ホルモン剤をまかずに勝手に落ちたつがるは、手間のぶんだけやっぱりおいしいのです。




つがるだけでなく、廣瀬さんのりんごは熟度を重視した味がのったもの。
とことんおいしいものを作る姿勢が固定客をがっちりつなぎとめ、新規の顧客も増えています。
「ほんもの」が売れると言う、いい例のような気がします。

私は長年りんご農家担当でしたから、りんごの味には相当うるさいのですが、
元同僚というひいき目なしに、彼のりんごの味は就農当初から一度も落ちていず、どころか、
どんどんおいしくなっています。

ていねいでまじめな仕事。廣瀬さんのことを考えると、まずこの言葉が思い浮かびます。


ワタマコト
ネットを枝から外した収穫後のつがる。
このネットを全部はずして箱詰めします。畑が遊び場の息子ちゃんたちもうれしそう。



「農業がやりたいと思ってはいましたが、始めたのは、たぶんそれがりんごだったからです。
自分の中でりんごは何か特別なものだったから。
そもそもの始まりは、「一つのりんご」でした。

ある日、倉庫でかじったそのりんご。噛みしめたら涙が溢れてきました。
悲しいことやつらいことを思い出したわけでもないのに、
とまらぬ涙にしばらく倉庫から出ていけなくなって・・・

と、あまり人前で言うにははばかられるような話ですが、そんなりんごとの出会いが、
りんご七会だとか、りんご農家になる、とかいうことにつながっていったんです。

なんかわかりにくいですかね(笑)」


ひとつのりんごとの出会いは一度。

あなたのテーブルの上にあるのは、病気にも虫にもやられず育った、
りんご畑のたくさんのりんごの中のひとつなのですね。

そんなこと、あまり考えたことはないのですが、言われてみれば確かにそう。
そう思うと、愛おしくて「よく来たね」とでも声をかけたくなります。

そんな思いを大切にして作った廣瀬さんのりんご。
ひとつひとつ某大な手間をかけてネットをかけた「つがる」、まだまだたくさんあります。

以下のメールアドレスからご注文できますので、廣瀬さんのりんごをぜひ食べてみてください。


hirose-ringo★gray.plala.or.jp
※★の部分を@に変更して送ってくださいね。


つがる5kg箱3,300円(送料別)
※つがるの販売は9月24日までとなります。
シードル6本入4,500円(送料別)



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No title

よし、いいぞ。
いかすにーちゃんだ。

りんごは、甘いかしょっぱいか。もともと、やっぱあ、うめえんだぜ!
かわいや、りんごだ。

羨ましいけど、見てろよ、もっといかす跡継ぎがいるからね。

Re: No title

田中さん

こんにちは。
いいでしょ~この人。

普通思いつかないことを粛々としてて、私は尊敬してます。

No title

私も2年前までつがるを落下防止剤無しで栽培しておりました。
色づくまでに次々に落ちていきます。
最後までわずかに残って色づいたつがるは、今までに食べたことのない味わいのつがるでした。
昨年から落下防止剤を使うようになりましたが、糖度的にはそんなに変わらないのですが、食感は普通に売っているりんごと変わりなくなってしまいました。
ネットは良いアイデアだとは思うのですが、色づく前に落ちてしまっては価値が半減すると思うのですが・・・・・

Re: No title

桃太郎さん

ご訪問ありがとうございます。

ストッポールなしでつがるを栽培していらっしゃったとは…すごいですね。
それはもうぼとぼと落ちたことでしょう。

まだきちんと熟していないのに落ちたつがるは、加工用にしているみたいです。
安曇野にはジュース工場があり、割と小ロットでジュースを絞ってもらえるようです。
また干しりんごなどにもしています。

色周りという点では、いつか「葉摘み」という作業について語りたいと思っています。

「ストッポールを打たずに作ったりんご」という付加価値が消費者に理解してもらえるといいのでしょうが、
りんごにホルモン剤を使用することすら知らない人が多いので、付加価値商品としては難しいですね~。

誰にもわかんなくても自分がイヤだからストッポールを打たない。
私はそこに彼のこだわりと根性が見えて、すげえなあと思っています。

No title

ほんたべさん、こんばんわー。マンゴーのネットをりんごに利用するとは!廣瀬さんの柔軟なアイディアやお客様への対応もすばらしいと思いました。

干しりんご、食べてみたいですねー。このメールに送れば、商品カタログみたいなものはもらえますでしょうか?

Re: No title

駆動さん

こんばんは。

干しりんごはシーズンスタートで、現在おそらく仕込中。
前年度のは売り切れたので、今は商品はないみたいです。
もうじき出来上がると思います。

商品カタログ…あるのかな?
DMは作ってると思うので、問い合わせてみてください。

炭酸を吹き込んでない自然発酵の発泡りんご酒、シードルもけっこうおいしいですよ。
あっ、駆動さんお酒飲まないんでしたっけ?
一本飲むと翌日はダメダメくんになってしまいますが…。

はじめまして

お友達のnabanaさんからのご紹介で、ほんたべさんの
ブログを訪問させていただきました。
梨のお話をブログに書いたからです。

私も第一次産業を応援したいと思い、
都市生活者としてできることをしたいと
常々思っています。

私のブログは食べ物だけではなく、
「自然保護」と「スポーツ」(ミスマッチですか?)を
テーマとしています。よかったら、遊びにいらっしゃって
ください。

それから、これもよかったらですが、
リンクさせていただいてもいいでしょうか?

また、お邪魔します。

Re: はじめまして

J-ロビンさん

はじめまして。ブログ拝見させていただきました。

リンクうれしいです~。
私も早速張らせていただきます!

生物多様性も興味のあるテーマで、
自然環境における農業の役割なんかを今度書いてみたいと思っています。

今後ともよろしくお願いいたします!

落果防止

リンゴの生産者の方に
つがるの落果は剥離層の不完全さからきます。
つがるの収穫と同時か前後に土壌分析に基づいて石灰と水溶性苦土、ホウ素、鉄などを施肥してみてください。きっと翌年は変化しますよ。頑張ってください。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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