生物多様性年にオオカミについて考える

オオカミ2
北海道でオオカミを飼育している桑原さんのシンリンオオカミ。
飼育と言っても犬とは違いますから、桑原さんが彼らのアルファ(ボス)という存在になっています。
オスからしょっちゅうチャレンジを受けるので、アルファも大変なのだそうです。



まず、ご質問。

私たちの住む日本における、食物連鎖の頂点に位置している動物は?
「人間」と思った人が多いかもしれませんが、実は猛禽類なのですって。

えっ?そんなものが頂点なの?
なんとなく、違和感を感じませんか。

クマは? とよく聞かれますが、本州にいるツキノワグマの主食は木の実。
また、北海道にいるヒグマも雑食性の動物のため、
エゾジカを襲うところを目撃されたりはしていますが、頂点にいるわけではありません。

さてその猛禽類が襲う動物は、大きいものでせいぜいキツネくらい。
それ以上の動物を襲うことはありません。

ということで、日本の食物連鎖の頂点は100年ほど前から猛禽類、
あるいは空白になっているのです。


オオカミ4.
草食動物だからと言って害がないわけじゃないシカの害。すでに下草は食べつくされた状態。
シカが増えすぎて食べるものがなくなってくると樹皮を食べ始めます。
禁猟区である知床半島には、冬季、シカが押し寄せ大量の樹皮を食べつくしています。
この一本がきっかけになり、森林が崩壊することになります。




明治以前はニホンオオカミという獣が日本の山々に君臨していました。

オスとメスのつがいを基本にした群れをなし、集団で暮らし、
人の世界に下りてくることなく、シカやイノシシを狩っていました。
野生動物は無意味な殺戮はしませんから、
オオカミがシカやイノシシの数量調整をしていたのでしょう。

日本の生態系はこの間、安定していたともいえます。

しかし、人間は違いました。

毛皮の需要と狂犬病などの心配、またヒトや家畜が襲われるのではという誤解なども相まって、
オオカミはずいぶん昔から嫌われ者だったようです。
ハンターたちによる殺戮と餌のシカやイノシシの激減などにより、結局絶滅してしまいました。

北海道にもエゾオオカミというオオカミがいましたが、これも絶滅。
日本人は生態系のバランスを整えていた獣をこの世から葬ってしまったのです。

そのツケは、現在に暮らす私たちが支払っています。

ニホンジカは現在山の木々を食い荒らし、いくつもの山々をはげ山にしてしまっています。
また農業被害も甚大なものになっています。


オオカミ3.
奈良県大台ケ原の惨状。シカが下草を食べ、樹皮を食べた結果がこれ。
もう自然が修復することは不可能です。シカの被害は農業被害以上に、
このような目に見えないところで着実に増えつつあります。




イノシシ害も、秋になると「りんごを食ってた」とか「とうもろこしが全滅した」など
あちこちからいろんな話を聞きます。
丹精込めて作った作物を野生動物に食われてしまう気持ち…いかばかりでしょう。

「みんな地球に住む仲間なんだから、仲良くしようよ!」などとはとても言えない私です。


人間が森林を開発し、野生動物の住処がなくなったから。
勝手に山を切り開き、田んぼを作ってさらにそこを放棄しちゃったから。

そんな理由ももちろんありますが、野放図に増えていく原因はもう一つあります。

それは、ハンター人口の激減。
ヒトというプレッシャーがなくなったことが、シカ・イノシシ・サルの増加に拍車をかけています。


散弾銃を10年持たないとライフルを使えないという法的な縛りや、
殺生を嫌う若者たちが増えていることから、ハンターも高齢化が進んでおり、
シカ駆除に狩りだされるハンターの最少年齢が60歳ってなこともざら。

趣味のハンティングはもう年なのでやめとくかというおじいさま方が
山を越え谷を渡り、シカやイノシシを駆除しているのです。

農業や林業者の高齢化が話題になりますが、ハンターの高齢化はあまり話題になりません。
今や人間も食物連鎖の頂点にはいないのかもしれませんね。


オオカミ5
北海道のシカ猟の見学をさせてもらった時のエゾジカの足跡。
それまで私は散弾銃の免許を取り、ハンターの後継者になろうと思ったりしていましたが、
ハンターは自分の獲物をさばかなくてはならないのです。「ム、ムリムリムリムリ…」
私の中の農耕民族の血が激しく反発し、そこで心が折れました。




さてそんななか、オオカミを海外から導入してはどうかと提案している人たちがいます。

ニホンオオカミに良く似た大きさのオオカミを導入し、生態系を元に戻す。
増えすぎたシカやイノシシは適量まで減り、安定した生態系で山が復活する。

これは実現までにどういう手続きがされるのか想像もできませんが、
初めて聞いたとき、なんて理にかなった方法かしら!と思ってしまいました。

こういう話を聞くと、ハブ駆除にマングースを導入したのにハブを全然食わず、
在来種のアマミノクロウサギとかをどんどん食べちゃった等の
失敗例を思い出す人が多いかもしれません。

オオカミの導入はそもそも日本に存在しなかった「種」を日本に入れるのとは違い、
昔いたけど絶滅したものを元に戻すという考え方。

中国からトキを連れてきた例と同じなので、マングースとは少し違います。


オオカミ1
たくさんの種がいる世界は美しいと思いませんか。
オオカミが再び日本の山々を駆け巡る日が訪れれば、そのぶんだけ私たちの世界は
豊かになると思うのです。またオオカミ見学ツアーとかできそうですね。地域活性の要になるかも。




この考え方には賛否両論あるでしょう。
オオカミは人や家畜を襲うのではないかとか、生態系が本当に安定するのかとか。

ただ人間の身勝手で絶滅したオオカミの群れが、
日本の山々でシカやイノシシを狩りながら、人目につかずに暮らしているという夢は
個人的にはなかなか素敵な夢だなあと思うのです。
(オオカミはヒトを恐れるので、ヒトの前に出てくることはないようです)

オオカミ導入はすでにアメリカのイエローストーン国立公園で実現しており、
増えすぎていたエルク鹿のバランスが整い、オオカミの獲物を横取りできることから
減りつつあったグリズリーが増加したという結果を導き出しているそうです。

人間が生態系に介入することの難しさはありますが、日本でも実現する日が来るかもしれません。


この話に興味をもたれた方、ぜひ、日本オオカミ協会のWEBサイトをご覧ください。
http://www.japan-wolf.org/
何名かの方は、旭山動物園のオオカミ展示にも協力したということです。

※エゾジカの足跡以外の写真はオオカミ協会理事・朝倉裕さんからの提供です。

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質問なのです

初めましてブログ主さま

オオカミについて考えると拝読させていただきました
その上で質問があるのです

シカによる害獣対策としてだけでなく全体の自然保護の為にもなるのでオオカミを復活とありますが

そもそも、シカがそれほどまでに問題であるなら
シカも酷い話ではありますがオオカミ同様に全滅させるのはダメなのでしょうか?
管理できない野生化したオオカミに狂犬病などがもし蔓延すれば、またそれによってオオカミが再び駆除されるだけではないのでしょうか?

まだまだ勉強不足のため至らない点もたたありますが知ることが必要だと思いこちらに書き込ませて頂きました

Re: 質問なのです

Mさん

こんにちは。
ご訪問ありがとうございます。

難しいご質問なので、わかる範囲で答えさせていただきます。

実際に提示できるデータ等は、日本オオカミ協会の方でお持ちなので、
もっと詳しく知りたい場合は、日本オオカミ協会のWEBサイトを訪問してみてください。

> シカも酷い話ではありますがオオカミ同様に全滅させるのはダメなのでしょうか?

シカも以前は絶滅しかけていた時期があったと聞いています。
エゾジカなどはそのために保護政策をとった歴史があります。

その頃は人間の食糧としてシカやイノシシなども狩られていて(つまりハンターがたくさんいた)、
ブログ本文内の、ヒトによるプレッシャーというのがそれに当たります。
しかし現在ではハンターが減ったので、シカを全滅させる等のことは難いことのようです。

毎年猟期が終わると駆除をしているようですが、その駆除自体もかなり難しいと聞いています。

また、シカの繁殖速度というのは相当なもので、ネズミに近いと言われます。
狩っても狩っても全く間に合わないということらしいです。

さらに冬が暖かくなったことが生き延びるシカを増やしていると聞きました。
以前は北海道の越冬地である屈斜路湖近辺では、凍死・餓死したシカの死骸がけっこうあったそうですが、
最近そういったシカは全く見ないそうです。


> 管理できない野生化したオオカミに狂犬病などがもし蔓延すれば、またそれによってオオカミが再び駆除されるだけではないのでしょうか?

申し訳ありません。

狂犬病のことについては、私も不勉強なので不明です。
これは日本オオカミ協会さんに聞いてみてください。

> まだまだ勉強不足のため至らない点もたたありますが知ることが必要だと思いこちらに書き込ませて頂きました

この件、導入の良しあしというよりも、シカ・イノシシ害は農業被害だけではないことと、
その天敵になりうるオオカミの導入を考えている人たちがいることを知っていただきたくて書きました。

興味を持っていただいて、幸いです。

日本オオカミ協会WEBサイトは以下になります。

http://www.japan-wolf.org/

No title

狼の導入。
なるほど。説得力がありますね。
とてもわかりやすいです。
シカ害、イノシシ害に苦しむ農家、林業家の声を
身近に聞いているほんたべさんだから
このダイナミックなプランに賛成なのですね。
ニホンオオカミでなくていいのだろうか?
と単純にすぐ思ってしまいますが
面白い問題提起だな~と思いました。
人間が生態系のトップを絶滅させてしまった。
それが今人間を苦しめているわけですね。
実行できたら効果は確かにあるかもしれません。
まだもろ手を挙げて賛成とはいきませんが
興味がわきました。

Re: No title

nabanaさん

こんにちは。

興味深い計画ですよね!
初めて聞いた時にとっても楽しいと思いました。

山の中でオオカミが走り回っていると思うとウキウキもしますが、
実際にオオカミを近くで見ると、犬とは違うので怖いです。
先人が全滅させてしまった気持ちもわかるような気がします。

でもその振る舞いの結果、私たちがニホンオオカミと出会う機会が永遠に失われてしまったんですよね。
自分たちの振る舞いも含めて、いろいろと考えさせられる話題だと思います。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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