「有機農産物の方が栄養価が高い」というのは幻想?

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おきたま興農舎の小林さんのつや姫。数年前に撮りました。
きれいに撮れたので最近いろんな人が勝手に使ってるのを見かけるけど、
「使っていい?」って聞いて欲しいなあ。



わたくしが某D社に入社する以前、まだ消費者会員だったころ、
某D社の情報誌に以下の様な記事が載った。かれこれ20数年前のことだ。

「某D社の生産者のもの(つまり有機農業で栽培された果物)と
慣行栽培のものの栄養分析を行い栄養価について比較してみたところ、
差は見られなかった」
※当時は有機JASが法制化されていなかったため、
農薬を使用している果樹類でも思想として有機であれば
有機農業といっていたので有機の果樹という表現は全然OK。

この記事を読んだ際、単なる消費者だったわたくしは
なんとなくがっかりした。でもま、有機農業を応援する理由は
豊富な栄養価ではなくその思想だから、とくに気にはならなかった。

某D社に入社後も、販促のための栄養分析をやったことがあった。
結果はやはり「大きな差は見られなかった」であった。
こうあって欲しいという思いと現実は違うということだよなー。

だからといって「有機がダメ」って話では全然ない。

わたくし的には「販売促進のツールがひとつ無くなって残念」くらいで、
「有機野菜は栄養価が高い」と言えるといいけど言えないのよね、
「有機野菜は安全」と言えないのと同じよね、てな感じである。

さらに。

2009年7月、英国食品基準庁(FSA)が
オーガニック食品の栄養価と健康影響についてのレビューを発表し、
やはり同じ結論を導き出し「有機野菜は栄養価が高い」という表現を禁止した。

こちらは研究結果をまとめたものだから
某D社で行った単発の栄養分析とはわけが違う。

わたくしはこのニュースを知った時も「やっぱりなあ」と思った。
理想と現実は違うのだ。でも有機野菜は栄養価で勝負しなくてもいい。
他に勝負どころはたくさんあるのだから。

そんなふうに思っていたら。

わたくしがいつも購入しているおきたま興農舎代表・小林亮さんのコメと、
山形県の慣行栽培その他のコメとの栄養分析を比較したデータを昨年末入手し、
単発の栄養分析としてはけっこう楽しい結果が出ていて驚いた。

これは山形県が独自に調査したものらしいが、
小林さんのコメ(有機・特栽)に明らかに優位性が見られるのだ。
スゴイじゃないか! 

甘味アミノ酸含有量比較。単位はnmol/g
甘みアミノ酸含有量特栽
農総研:農業総合センター(山形市)、水田試:水田農業試験場(鶴岡市)
T-12:小林さんの特栽田。品種はつや姫。

あまみ有機
甘味アミノ酸含有量。品種はコシヒカリ。単位はnmol/g。
上記試験区(慣行)と小林さんの有機圃場との数値の比較。
アラニンってなんだろなーって調べてみたら、しじみにたくさん
含まれてるアミノ酸で肝機能を強化するらしい。



小林さんは有機米と特栽米を栽培しているが、
特別栽培農産物とは言っても初期の除草剤を一回散布ってヤツで、
殺虫・殺菌剤等は散布していない(ガイドライン上は除1でも特栽)。

どちらの田んぼにも同じように粗大有機物と資材を投入しており
同じ土づくりを何十年も行っていて、そのコメはとてもおいしいのだ。

同地域の慣行栽培では粗大有機物の投入はあまり行われていない。
どちらかと言うと化学肥料に頼っている農家が多い。なぜなら寒いからである。
山形県の内陸地域は豪雪地帯のため、春先にいついつまでも雪が残っており、
粗大有機物を入れると6月頃にガスが湧き、根が傷むことがある。

そんなリスクを負うよりも化学肥料で作るほうが容易い。
コメ、儲からないしね。省力化しなくっちゃ。
ということで、慣行農家と小林さんの違いは「土づくり」だ。
そこに付随するいろいろな技術もあると思うが、決定的に違うのは「土」なのだった。

旨みアミノ酸含有量比較。単位はnmol/g
旨みアミノ酸含有量特栽
T-12が小林さんの特栽圃場。品種はつや姫。
アスパラギン酸は疲労回復に効果があるんだって。

うまみ有機
旨みアミノ酸含有量。単位はnmol/g。T-12が小林さんの有機圃場で
品種はコシヒカリ。使う肥料や栽培方法が明らかになんないと
なかなか判断は難しいけど、優位性があるのは明らかでしょう。



さてわたくし、時折「有機農産物と慣行栽培のものと
どっちがおいしい?」なんて聞かれることがある。

「有機のほうがおいしい」と言いたいが、有機JAS認定を取得していても
「どーなのよ」って味のものがあるのも事実で、
有機だからおいしいって話は成り立たないと思うのだが、
とりあえずは「おおむね有機のほうがおいしい」と答えている。

有機栽培では基本的に土づくりに時間をかけている人が多いことと、
バッチリ効く農薬も即効性のある化学肥料も使わず作物を栽培するのは
相応の技術がないと難しい。つまり、技術のある人のものはおおむねおいしい
=有機の方がおおむねおいしいって理屈である。

この論法にはすこーしだけ説得力があるがそんなにはないから、
どう言えばいいのかなーと最近あれこれ考えていて、
このデータを正月に見てハッと思いついた。

「有機農産物」ひとくくりにして評価はできないと言えばいいのだ。

人それぞれ土にかけている時間も技術も違い個体差も相当あるから
それをおしなべて評価することにムリがある。
有機だろうが慣行栽培だろうが土づくりができており技術があれば
栄養価が高くおいしい野菜・コメができると言えばいいのだった。

その土づくりとは「健康な土」「ふかふかな土」とかいう
有機関連の流通がよく使うあいまいで心地良い言葉ではなく
生物性・物理性・化学性の整っている土のことである。

γアミノ酪酸含有量比較。単位はnmol/g
GABA.jpg
T-12が小林さんの圃場。GABAとは、
「脳の血流改善、血圧降下、精神安定、腎・肝機能活性、アルコール代謝促進作用、
消臭など。また、大腸がんの抑制作用についても期待されています」
日本食品機能研究会WEBサイトより引用



ほんとうに栄養価の高いおいしい作物はそういう土から生まれる。
そしてそれは農家の腕と努力と技術に比例するのだった。

十把一絡げにして「有機のほうがおいしい」のではなく、
「この人(お好きな固有名詞を入れてください)のものはおいしい」と
言わなくてはならないのだった。

「有機農産物の方が栄養価が高い」という言葉にはそれなりのインパクトがあって
販売促進はとってもしやすいが、残念ながら現実はそうではない。
小林さんのデータも単年度のもので、本人自身
「今年は数値が変わってると思うよ、味も違うし」と冷静に言っていた。

しかし土づくりは蓄積していくものだから、
分析すればきっとそれなりの数値が出てくるだろう。
「ほんとうにおいしいもの」は個人の技術・力量に由来するのだ。

ということで。

わたくしが監修している「新鮮野菜net」に登録している方々、
うまいものを作って個人名でバンバカ売りましょう! 
そして某D社など有機農産物の流通をやってる会社の人々は、
「全体」ではなく「個人」に焦点を当てたほうがいいと思うんですがどうでしょうか。


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有機栽培が優れていると思っていた、元有機栽培農家!

まさにその通りだと思いますね。
私も30年程前に、今は当たり前になった有機栽培をやっていました。

堆肥や発酵肥料を材料から吟味して、手作りして使っていました。なので、できた作物も当然栄養価が高いと思っていました。

作物も農薬無しでも病害虫を寄せ付けないパワーを持ったものが育つんだろうなぁと思い込んでいました。

しかし、現実にはそうはなりませんでした。
詳しくはこちらに記してあります。http://floraishida.com/home/

今も、有機認証を受けて有機栽培している知り合い達が、病気や品質や収量で多くの問題を抱えていますが、私の提案を聞き入れてくれる人は1人もいません。

以前の私もそうだったので分かるのですが、化学肥料や化学物質は悪で、有機質や天然素材のみが善なのだから。

今だから言えるのですが、有機質肥料や化学肥料のどちらにもメリット、デメリットがあります。その両面の特性を捉えて、使いこなす事が技術ではないかと思っています。

私は化学肥料も使いながら、栄養価の高い作物栽培を実現しています。

Re: 有機栽培が優れていると思っていた、元有機栽培農家!

コメントありがとうございます。

どんな肥料を使っていてもチッソ過多ならいい作物できないし、昨今では微生物がものすごく大切な役割を担っていると考えられています。
チッソの量によって微生物相が変わるという研究報告もあるようです。

大きな方向性としては、農薬や土壌消毒剤、除草剤を使わない栽培、適正な量のチッソ、堆肥の使用などが食味の良い作物の栽培に必要なものと考えられると思います。

微生物関係の研究は昨今非常に進んでいて、目に見えない微生物の役割について少しずつですが明らかになりつつあります。

いずれにしても、土づくりは必須なんだろうと思います。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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