農薬取締法と残留農薬基準値の話

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メーカーにとって「異物混入」は企業イメージを損なう大変恐い事象だが、
「よくあること」でもある。異物混入が一切ないなんてことはあり得ないから、
危機管理上、初動(対応)が大切だと考えられてるのに、今回失敗してる感。
だからなんかしらんでかい話になってるのかなーと考えてるわたくし。



2002年7月、「無登録農薬問題」というでかい事件が発生した。
経緯は以下のように農水省のWEBサイトに書かれている。



主な経過

(1)平成14年7月30日に山形県において無登録農薬(ダイホルタン及び
プリクトラン)を販売していた2業者が農薬取締法違反及び毒物及び
劇物取締法違反の容疑で逮捕され、8月9日には、更に山形の業者に販売していた
東京の業者が、農薬取締法違反の容疑で逮捕された。

(2)その後、東京の業者が販売していた他の都府県の販売業者への
立入検査の結果をもとに、他の販売業者及び購入農家への立入検査も進み、
平成14年末までに44都道府県で無登録農薬の販売(約270営業所(個人を含む。))
又は購入(約4,000農家)が行われていたことが判明している。




当時、某D社の落葉果樹産地を担当していたわたくし、
ダイホルタンがどんなものか農家にあれこれ聞いてみた。

曰く「ものすごくかぶれるから使うのやめた」
「まいた後に樹の下を歩いただけでかぶれた」
「収穫した梨を箱詰めするときにかあちゃんの手がかぶれた」
「6月にまくと収穫するまで殺菌剤がいらないほどよく効いた」

相当残効性の高い剣呑な物質だったようである。

ダイホルタンは昔、洋梨や和梨、りんご等に使用されていた殺菌剤だ。
同じく失効農薬で問題となったナフサクは植物成長調整剤(ホルモン剤)で、
メロンのネットを美しく出すために使われており、プリクトランはダニ剤である。

これについても聞いてみたら、こんな返事だった。
ナフサク使うと果実が急に大きくなるからネットがきれいに出たんだよねー。
まだ使ってる人いたんだねー」(茨城県のメロン農家)
プリクトランね、家の倉庫にまだ1ケースある。どうしよ」(静岡県のお茶農家)

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農薬の適用はなくても桃で使えるものを使っていたすももなどは、
マイナー作物と呼ばれた。期間内に自治体に「適用にして!」という届けを出し、
許可されたらOKだったため、山梨・長野などの大産地は対応できたが、
地域に一人だけ作ってるってな人は農薬が使えない状況が発生した。
もー、めっちゃ大変。パセリ作ってた人、その年は何もまけなかったんだもの。



2002年当時は失効した農薬を使うことについて法的な縛りはとくになく、
いつまでに使いなさいなんて指導もなく、回収システムもなかったから、
失効農薬がホコリをかぶって倉庫の隅に眠ってる農家はたくさんいた。
ホリドールがあるんだけどどうしよう、なんて言ってた人もいたのだ。
※ホリドール・成分名パラチオン。1960年、1970年代に次々失効。

ともあれ2003年に農薬取締法は劇的に改正され、
残留農薬基準値の設定が速やかに整備された。
そして失効農薬の販売・購入の禁止及び、回収システム、
違反した場合の罰則規定などがこまかーく決まった。

さて、この「整備」とはどういうことだったか。

農薬とは、使ってもいい作物(適用作物)と
使い方(希釈倍率、散布量、散布できる期限)が決まっている。
農薬取締法が改正されて以降、この決まりごとを順守することと、
決まりごとを守らなかった場合、罰則が発生するようになった。

えーと。つまりですね。それまでは適用作物や希釈倍率は
それほど守られてなかったってことです。

例えばトマトに適用あるからミニトマトにまいてもいいよねとか、
小松菜にあるからほうれん草にもまいてもいいよねとか
作物をかっちりわけてまいてたわけじゃなかったわけ。
桃に適用があるからすももにもOKでしょう! って感じ。

倍率や散布量についても、収穫直前のものにまく以外は
おそらくどんぶり勘定だったはず。濃度が濃い人いたと思うなー。

さらに、さらに。

全ての作物について全ての農薬の残留農薬基準値が
きちんと定められていたわけでもなかった。
つまり「残留農薬基準値のない作物」がかなーりたくさんあった。

短期暴露評価_ページ_04
「急性参照用量(ARfD)を考慮した食品中の残留農薬基準の設定について」
厚生労働省サイトより抜粋。残留農薬基準値の定め方。めっちゃ複雑。



ええー、そうなの? とわたくしもその時初めて知った。
意外とザルじゃん! 残留農薬基準値! とか思ったものだ。

その結果、今まで使えた農薬が使えなくなった作物が大量に生まれた。
適用がなければ「適用外」となり農薬がまけない。
一年程度の猶予期間があったように記憶しているが、現場は混乱した。

わたくしの担当作物では、パセリ、大葉のほか、すもも、さくらんぼ、
プルーンなどの小粒核果類にまける農薬がゼロになった。
まいたら違反である。わあ! 大変、どうしよう? なんとかしてー!

さらに2003年、新しい残留農薬基準値の告示が出た時にはもっとあわてた。

残留農薬基準値は動物実験等の結果で設定されるから、
基準値がないものは動物実験からやらなくてはならない。
ひとつの実験をするのに何百万というお金がかかるから、
農薬メーカーだってそんなことをたった一年間ではできはしない。

で、どうしたかというと、よその国の基準値を当ることにしたのだった。
その数値がどこにもない場合は、一律0.01ppmという数値を決めた。
これを残留農薬基準値のポジティブリスト制と言う。
今でもデフォルトの数値として0.01ppmが残っている作物がある。
(ちなみにこの0.01ppmってべらぼうに低い数値なのね)

この制度が施行されたのは2006年5月だが、
施行されたらこんなことが起きる。

例「りんご畑の横にセロリ畑があります。
セロリの収穫時期、りんごには農薬をバンバンまいていますから、
セロリに思いっきり農薬がかかります。そしてりんごにまく農薬は
セロリには適用のない農薬ばかりです」

P7196188_20140402140531658.jpg
りんご畑の手前に田んぼがありますね。コメに適用のない
りんごの農薬がコメに残ってたら出荷停止ですよ。
こういう畑はそこいら中にあるから、自治体も大変だったでしょう。
でも、当初は当事者同士で相談してねとか言ってたらしいけど。



答「セロリにりんごの農薬が飛散してその農薬の適応がない場合、
セロリは回収・廃棄処分となるのです。セロリ農家大打撃です。
「隣接圃場からの飛散」と言っても法律違反だからダメなのです。
損害賠償なんて話が出るかもですよ」

ってことで隣の畑に違う作物があたりまえに植わっている地域、
山梨・長野あたりでは防除暦が一から見直され問題が起こらないようにした。
結果として防除暦には共通で使用できる農薬が組み込まれ、
収穫前の農薬には残効性の低いものが選択されることになった。

昨今「基準が緩和されてわあ大変!」と話題になっている農薬は
農薬メーカーがちゃんと動物実験してADI値を出して設定したら
デフォルトのものより高くなったってことなのではないかと
わたくし、密かに思っているのだがどうでしょうか。

さて2014年10月、再び残留農薬基準値が変わることになった。

今まではADI値(一日摂取許容量)から導き出されていた数値が
ARfD(急性参照用量)を元に計算し直されることになった。
いくつかの農薬の残留農薬基準値が段階的に変わっているが、
JAに出荷していない農家にはうまく伝わっていないかもしれない。

急にARfDを元にするという話になったのは
中国の毒餃子が原因じゃないだろうかと推測しているわたくし。

ADI値(一日摂取許容量)をベースに「安全」というのは違うだろう、
ARfD(急性参照用量)から計算すべきであると
当時WEBでいろいろと騒がれていたからである。

心配な農家の方は以下の一覧表を見てみてください。
メジャーどころではオルトランの数字がめっちゃ変わってます。
http://www.pref.saitama.lg.jp/a0907/nb/documents/1219ichiran.pdf

短期暴露評価_ページ_05
短期暴露評価_ページ_06
「急性参照用量(ARfD)を考慮した食品中の残留農薬基準の設定について」
厚生労働省サイトより抜粋。すでにちびちびと変わっています。
また、急性参照用量を参考にするものとしないものとがあります。



ともあれ、残留農薬基準値が厳しくなったり緩くなったりするのは、
農薬メーカーや国の陰謀ではなく、そのときどきの状況だろうと思う。
2002年以前のことを考えれば、使用方法も基準値も
相当整備されているとわたくしは考えている。

「何か事件があって法律が整備される」のはいいことで、
例えば食品偽装事件を発端とした景品表示法とか、
コメトレーサビリティ法とかはかなーり厳しい法改正が行われた。

さてしかし。

ここんとこマクドナルドの異物混入をきっかけにメディアがやたらと騒いでいる。
ああいう異物混入はわりと日常茶飯事だと食品業界にいる人なら知っている。
単に個々の事例が全体化されただけだろうと思うんだが、
これをきっかけに食品衛生法が変わったりするのかもしれない。

わあ、大変。

それにしても、個別の対応でいいものがなぜ公になっているのか。
そしてなぜそれを大騒ぎしているのか。不可解である。

なんちて昨日から思ってるわたくし。

食品衛生法上、異物混入については第六条で定められています。
あいまいなので整備されそうなニオイがプンプンします。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO233.html


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ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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