絶滅危惧種・スターキングにまつわるお話

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りんごらしい赤と形のスターキングは、イラストで書かれるりんごに似ている。
白雪姫が食べたりんごはスターキングだったのではなかろうか。


わたくしが担当していた山形県のりんご農家の畑に一本だけ、
というかふじか何かの枝の一本だけに、スターキングがなっている。

スターキング。すげーなつかしいでしょう?

わたくしが中学生のころ、りんごといえばスターキングだった。
真っ赤な色が美しい、りんごらしい形をしたりんごだ。
りんごらしい形というのは絵に書かれるりんごと同じ形という意味である。

中学の頃、スターキングにいちごジャムをつけて食べるのが好き、
だったことを昨日思い出したが、なぜそんなことをしていたのかは謎だ。

部活が終わっておなかペコペコで家に帰りコンバトラーVを見ながら
スライスしたスターキングにいちごジャムを乗せて食べていたのだ。
大変とても懐かしい思い出だが、トマトに砂糖をかけて
食べてたことを思い出したときのようにちょっと恥ずかしい。

当時鳥取県で売られているりんごはほとんどボケていた(らしい)が、
わたくしは知るよしもなかった。

ボケるってのはりんごがふかふかして柔らかくなってしまうという意味で
現在でもりんごを常温で保存するとパリッとした歯ごたえがなくなり
ふかっと柔らかくなってしまう。だからりんごは冷蔵庫で、
一個ずつラップでぴっちりくるんで保存しなくてはならない。

昭和の時代は物流事情もりんごの保存状況も悪く、特に西日本では
ほぼボケりんごが売られていたらしい。ことはりんごの担当になって知った。

「西日本の(しかも陸の孤島・鳥取の)ヤツがりんごの味わかるわけないじゃん。
生まれてからずーーっとボケりんご食べてんだから!」と東京生まれの同僚に言われ、
くそう! と思ったが、わたくしは確かにボケりんごしか食べたことがなく
りんごの食感の微妙さについて、当時は非常に鈍かったと思う。

しかし精進したおかげで今ではりんごの食感には非常にうるさくなった。
氏より育ちだよね!!と思ったりする、っていうかこの使用法間違ってる?

この「ボケりんごしか食べたことがないんだから!!!」というのは、
後日、親戚のおばちゃんに友人のりんご農家がつくった
めっちゃおいしいりんごを送ったときに証明された。

「ほんたべちゃん。このりんごはとてもおいしいけど、硬いね」と
おばちゃんは言った。えーと。そうですか。
収穫したばかりでバリバリと音がしそうなりんごだったが、
硬いと言われればそうかもしれないなあ。

でもさあ、それがりんごなのよ、おばちゃん。

と、わたくしは言いたかったが
「常温に置いとけばボケ、、、じゃなくて柔らかくなると思うよ」と
りんご農家が聞いたら卒倒しそうなアドバイスをしてしまった。

教訓・ボケたりんごしか食べたことのない人は
自分がボケりんごを食べていることを知らない。


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5年くらい前の本田達義さん、クニヨさんご夫妻。
クニヨさんの嫁入りのときに植えたふじの前身「東北7号」が、
まだ残ってるというから驚き。本田さんの畑の大きなりんごの木の
一本の枝だけに、いまだにスターキングがなっております。



さて昨日、上述の山形県のりんご農家、本田達義さんから
待ちに待ったスターキングが送られてきたのだひゃっほう!!!
夏に伺ったときにお会いして、スター食べたいなと言ってみたら
1ケース送ってやっから! と約束してくださったのだ。

ウキウキしながら箱のフタを開けると、懐かしい色と形のりんご、
スターキングが「ほっとくとどんどんどんどんボケるわよ!!!」
りんごらしい甘い香りを放ちながら叫んでいた。

速攻で冷蔵庫に入れたが冷蔵保存しても1週間くらいでボケるだろう。
スターキングはそういうりんごだからである。

さて、わたくしが大人になり「りんごの品種」を意識したころには
スターキングは市場から姿を消していた。
スターキングはほとんどのりんご畑から消えた絶滅危惧種でもある。

スターキングの例に漏れず、りんごの品種の変遷はわりあいと激しく、
人知れず絶滅、というか市場から駆逐された品種は非常に多い。
作りにくいもの、市場性のないもの(売れないもの)は
農家も作りたがらないから、そういうりんごは店頭から姿を消す。

紅玉のように絶滅危惧種から奇跡の復活を果たすりんごもあるが、
そういうものはまれで、たいがいはそのまま姿を見なくなることが多い。

青森のりんご農家のところに印度(インドともいうけど)があるのを見つけ
「今年で切っちゃうから」というので1ケース送ってもらったが、
モッサリモサモサした食感はとてもりんごとは思えなかった。

当時55歳位だった上司が「印度ってすげーうまいりんごだと思ってたけど、
こんなんだったっけ」と悲しそうな顔してため息混じりに言っていたが、
それはつまり現在のりんごがべらぼうにおいしくなっている、
ということでもある。

わたくしたちは今、世界一おいしいりんごを食べているのだ。

日本のりんごは糖度が高く、上から下までまっかで、大きい。
それはそうなるよう農家が死ぬほど手間暇をかけているからだ。
世界のスタンダードは、酸っぱくて赤くなくて小さいりんごである。

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本田さんちのりんごの木。今ではこのような大きな木でりんごを作ってる人は少なく、
省力化のため、矮性台を使った小さな木で作っている。しかしやはり
大きな木でつくったりんごはおいしい。環境の影響を受けにくいことや、
この大きな木でないとほんとうの味が出ない、という人もいる。



日本のスーパーで世界のスタンダードのりんごを並べたら
誰も買わないだろう。日本人は甘くて大きいりんごが好きなのだ。
しかも赤いりんごはまんべんなく隙なく絶対に赤くなくてはならない。

ということで、現在の絶滅危惧種の代表的なものが「北斗」「千秋」で、
どちらもとてもおいしいのだが、シンカビ病という病気が入りやすく、
収穫間際に肩が割れるとか、落っこちるとかいう性質がありつくりにくい。

切ってみないとわからないシンカビは、市場に嫌われる原因である。
だってお客さんが怒るでしょう。半分に切ったらタネのところに
カビが生えてんだもん。取れば問題ないが消費者はそうは思わないのだ。

「おいしいのになー」と残念に思うが、商品としてむずかしいのであれば
新しい、より良い品種に変更するのは当然である。
昨今は甘くておいしくて魅力的な品種がずいぶん増えているからだ。

かくしてスターキングも国光も印度もゴールデンデリシャスも
店頭からもりんご畑からも消えていったのだった。

というような歴史に思いを馳せながらスターキングを食べたら、
全然ボケてなくて爪で果実を弾いてもコンコンと高い音がするのに、
食感はもっさりもふもふの「あーこれよく食べたよね」って食感であった。

もさもさと食べながら思わずふふふふと笑ってしまったのは、
頭の中に「ブイ! ブイ! ブイ!! ビクトリー!!!」という
コンバトラーVのテーマが流れたからではなく、中学のときの冬の空気や
実家の台所、階段に寝そべっていた猫など、もろもろの思い出が蘇ったからだ。

スターキングはわたくしの中学の思い出にかたく結びついていたのだった。
なんてことを今まで知らなかった。スターキング、奥が深いぜ。

今日はいちごジャムをのっけて食べてみようかな。
鳥取の湿った冬の空気のにおいや当時住んでいた家の自分の部屋、
友だちの顔が、もっとよく思い出せるかもしれない。
わたくしの通った中学も住んでいた家も、今はもうないのだから。


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手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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