農薬取締法と残留農薬基準の思い出

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収穫後出荷まで冷蔵庫で保管する洋梨は、貯蔵中に病気が発生することの多い果物。
ロス率0%のためには強い農薬の使用は必須。無登録農薬事件にはそういった背景がありました。



2002年7月、山形県内で無登録農薬ダイホルタンが使用されていたことが発覚し、
これらの農薬を扱った販売業者が逮捕されるという事件がありました。

無登録農薬(失効農薬)はダイホルタンの他、プリクトラン、ナフサクなど。
ダイホルタンを使用していた果樹農家の作物が各地で流通停止になり、
使用した農家のなかには自殺者まで出てしまい、大きな話題になりました。

事件をきっかけに、この年の12月に「農薬取締法」が改正され、翌年3月に施行。
さらに平成18年には「食品衛生法」の残留農薬基準も変わり
その対応に農家も普及所も流通も右往左往した、ものすご~く大きな事件でした。

これを境に、残留農薬や農薬の飛散(ドリフト)、
農薬の適正な使用法についての意識が急速に高まり(処分されるからね)、
農家やJA、普及所の意識が大きく変わりました。

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農薬取締法改正で一番困ったのが、マイナー作物に散布できる農薬がなくなったこと。
暫定的に使用する農薬の許可を届け出なくてはならず、地域で一人だけ栽培しているなんて人は
使える農薬がむか~しの農薬だけになった等々の混乱がありました。
すももやさくらんぼなどは「小粒核果類」という分類で、使用できる農薬を増やしたなんてことも。



当時果樹農家を担当していた私は、対応と農家への説明に苦労し、
「施行が拙速すぎるんじゃないのかあ!」とグチグチと言っていましたが、
今考えるとダイホルタン事件以前は、農薬の使用は無法地帯のようなもの。
やっぱこれで良かったんだなあと思ったりしています。

さて当時は農家にダイホルタンの興味深い思い出話をいろいろと聞きました。

「ものすご~くよく効くし、効きすぎてコワイくらいだった。
6月に一回まけば収穫まで病気が出ないんだよ、コワイでしょう?」

「ダイホルタンってかぶれるんだよね。母ちゃん嫌がってたよ~、
樹の下に行くと顔が腫れるんだもん、箱詰めしててもかぶれるしね。
だからあんまり使わなかったなあ」

「良く効く農薬があるからって、時々畑に知らない人が売りに来てたんだよ、
それがダイホルタンだったんだよなあ。俺は買わなかったけど、買った人いると思うよ」

相当効く農薬だったのでしょうね。昔の農薬はほんとによく効きます。
しかし良く効く農薬は危険性も高いもの。昨今では製造中止になるものも増えています。

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製造中止になるもの・登録を取り下げるものは価格が安いものがほとんど。
昔の農薬はすごく安いのです。新薬は基本的にお高く、とくに農薬を大量に使用する果樹農家が大変。
低農薬栽培の人ほど新薬を使うので、経費的に厳しくなるというジレンマも。



ちなみに農薬は全て農林水産省に登録申請して受理されたものですが、
採算割れ・安全性などの問題から、登録を辞める農薬が毎年いくつかあります。
これらは失効農薬と呼ばれますが、在庫が市場に出回っている間は使ってもよく、
また農家の在庫などでも使用期限が切れるまでは使ってよいことになっています。

2002年当時は失効農薬の廃棄の手続き方法などは整理されておらず、
農家の倉庫にはむか~し失効したホリドールや、まさに話題のプリクトランなどが
分厚いホコリをかぶって保管されていたりもしていました。

農家の中には「えっ?使っちゃいけなかったの?」ってな意識もあったと思います。
ちゃんとしたルールが定められていなかったのでしょうねえ。
この後地域で回収がスタートし、在庫の農薬は3年後くらいにほとんど回収されたと聞きました。

さて農薬取締法の改正後、何が整理されたのでしょうか。

それまでは、それぞれの農薬に適用作物というのが定められてはいるのですが、
とりあえずそれ以外の作物に散布しても罰則規定はありませんでした。

農薬の登録は、農薬メーカーが残留試験など様々な試験を行い申請をするのですが、
全ての作物の試験をすると経費も手間もかかるため、
マイナー作物については試験を行わずにいたものが多かったのです。

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マイナー作物の最たるもの「パセリ」。使える農薬がチョーコワイものしかありませんでした。
農取法改正以前は何でも使えたのですが、パセリやクレソンなどのマイナー作物は
とりあえずの暫定使用許可も置いてきぼりにされました。
取引してた農家に「申し訳ないけど無農薬で作って」と依頼した思い出が。



これは食品衛生法で定められている残留農薬の基準値も同じで、
試験されていないので残留基準値がない作物もかなりありました。

現在では適用や希釈倍率などの使用方法が間違っていると、それだけで出荷停止です。
また残留農薬基準値については、国内にないものは海外の基準値を流用し、
海外にもないものについては0.01ppmという暫定基準値が設けられるという
ポジティブリスト制という制度が適用されています。

0.01ppm…相当厳しい数値です。私はこの数値に決まったと聞いた時、大変とても驚きました。
そして、農薬取締法とポジティブリスト制の施行により、地域の防除暦が大幅に変更になりました。

隣り合った圃場に違う作物が栽培されることの多い日本。
果樹の畑の隣で野菜を栽培する例など、そこいら中に存在します。
隣からの農薬の飛散により、自分が散布した覚えのない農薬が作物から出ることだってあります。
それが残留基準値をオーバーした場合や、適用外農薬だった場合、出荷停止になるのです。

厳しいっすね~。


P7196188.jpg
スピードスプレイヤーで農薬を散布しているところ。飛んでます。飛散します。
果樹地帯に一軒だけ畑作農家なんてとこもあるし、田んぼの真ん中の果樹園ってのもあります。
何かあった時には誰が補償してくれるんだろう?みたいな話が当時はよく出ていました。



そのため、隣接しがちな作物双方に使える農薬や(ぶどうと桃など)、
果樹類の止め消毒(最後の農薬)には残留基準値が高い農薬を持ってくるなど、
以前の「よく効く農薬ばっか使おう」的な防除暦は、現在では姿を消しています。

10年前と比較して、農薬についての考え方はかなり改まり、
安全性(と言うよりは法の縛りがきつくなったせいか)に配慮されているように思います。
ただ、定められている残留基準値については「?」と思うことも。
それはまたの機会にご紹介いたします。

長くなりました。あ、あとひとつだけ。

残留農薬は、それぞれの作物の基準値以内であれば流通してもかまわないのです。
農薬を使用して栽培した作物は、多かれ少なかれ農薬が残留していると思った方が無難です。

とくに成長と結実が同時に行われる果菜類・イチゴなどは、
きちんと洗って食べた方がいいと思います。



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