種を採る女たち―次世代に繋ぐ物語

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北海道の地豆たち。左から黒千石大豆、くらかけ豆、さくら豆(たぶん)、べに絞り、
大正金時、黒豆。北海道は豆の一大産地。換金作物としての大規模農業の豆と、
家庭菜園用の豆(野菜豆)が栽培されており、野菜豆は家庭の主婦が種を採り選抜してきたそう。
一般的に栽培されている大正金時も、元は野菜豆として作られていた本金時の突然変異種。
チリコンカンなどに使ってる金時は、実は家庭菜園から生まれた品種なのですね~。


だだちゃ豆というおいしい枝豆があります。

この名前のエピソードは、ご存じの方も多いはず。
様々なバリエーションがありますが、正しいエピソードは以下のもの(らしい)です。

「おいしい茶豆ができたので、お殿様に食べていただこうと
庄内・小真木地区に住む一人の農民が、茶豆を献上しました。
その豆がおいしかったので、お殿様は尋ねました。

「この豆は誰が作ったのか」「それは小真木のだだちゃが作ったのでがんす」
お付の人はそう答えました。※だだちゃ=おじさんというような意味
それ以来、お殿様は「だだちゃの作った豆が食べたい」と言うようになりました」

お殿様が登場するので、江戸時代の話かと思うとさにあらず。
これは明治30年頃から大正4年までのある時点の物語。
そして、お殿様のお名前も、だだちゃの名前もわかっています。

お殿様は酒井忠篤公、小真木のだだちゃは太田孝太という人でした。
そう、庄内のお殿様は、平成の今もまだ庄内に住んでいらっしゃるのです。

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黒千石大豆はちびっちゃい黒豆で、元は緑肥作物だそうです(べにや長谷川商店のリーフレットから)。
ごはんと一緒に炊くと、紫色のきれいなごはんが炊けるそうですよ。
さやは大豆と同じでとってもちっこくてかわいいとのこと。区民農園に植えてみようと画策中。


さて、このだだちゃ豆の出自を調べた人がいます。

山形大学農学部助教授・江頭宏昌さんは
在来品種研究会の幹事もなさっている、在来種にとても詳しい方。
大地を守る会に勤務していた時代にお話を聞いたことがあり、
上記のエピソードはその際にお聞きしたものです。

古来より農民は、自分の畑で栽培した野菜類の種を採り、翌年の野菜を作っていました。
種がビジネスになったのは昭和に入ってからのこと。
それまでは、農民はその年によくできたもの・味の良いものを選抜し、
毎年種を採り続けていたのでした。

それらの種は固定種、または在来種と呼ばれています。

だだちゃ豆もそのうちのひとつ。現在だだちゃ豆には、早生から晩生まで、
また、豆の大きさ・甘み・うまみなどがそれぞれ違う30もの系統がありますが、
全てこの100年のうちに作られたと江頭さんは言います。

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さくら豆は、東北地方から入植した農家が持ってきたものだろうと言われています。
代々自家採種されてきた豆はDNA鑑定などしないとその出自がわからないため、
江頭さんは茶豆のDNA鑑定を行い、茶豆がどこから来てどう定着したかを調査しました。
その話はまた枝豆の季節にでも。でも研究者ってすごいですね~、その情熱、すばらしい。



系統の育成には大変な観察力と持久力が必要です。

なにしろ、畑の中で生まれた突然変異種=一本だけある変わり者を目ざとく見つけ、
その種を採り、翌年性質を確かめて是非を判断し、その後性質が安定するまで
長年観察し続けなくてはならないのですから。

たった100年でこんなに多くの系統が作られる品種は、他に例を見ないと言います。
それほどに、庄内人のおいしい枝豆に対する情熱と執念は並々ならぬものだったのです。

それもそのはず。だだちゃ豆の種採りは、営利目的ではなかったのでした。

少しでもおいしい豆を作って、近隣の人々に種を分け与える。
おいしい豆をみんなで食べようという隣人への気遣い、思いやり。
それが良食味の豆を残し、さまざまな系統を作ることにつながりました。

お隣さん(地域社会)を大切にする日本人ならではの行為なのでしょう。
だだちゃ豆の種には、他者に対する思いがのっかっているのですね。

さて、昔から採種した種を選抜する仕事は、女衆=主婦が担当していたと言います。

一家の主婦は家族の食べものを管理するという、重大な役割を担っています。
農家がよく「くいりょう」と言いますが、自家用の野菜作りは主婦の仕事でした。

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ひたし豆などにするとおいしいくらかけ豆。ほんとはここに入る予定の豆があるのですが、
まだその豆が届いていないので、写真がUPできません(泣)。その名も「真珠豆」。早く来て~。
届き次第、今回UPしている写真を全部見直して変更いたします。


その年いい野菜がたくさん採れれば皆が飢えずに済む…つまり、
少しでも良い種(収量が多く、おいしいもの)を選抜することが、
家族が健康で元気に暮らしていけるかどうかを決めるのです。まさに主婦の腕の見せ所です。
(男衆には力仕事はできても、そういった地味な仕事は向いていないらしくて、
男衆が選った種は発芽率が悪かったりするのだそうです)

種を採る行為というのは、自分のためだけにする仕事ではなかったのですね。

子孫に、地域に繋ぎ、皆が継続してこの作物を食べ続けられるように…
そんな思いがこもった、利他的な尊い行為でもあるのでした。

例えば、現代に住む私たちがおいしいだだちゃ豆を食べられるのは、
庄内の農民が代々種を採り続け、いいものを選抜し続けてくれたからに他なりません。

種を採ることをやめてしまうと、その種はこの世界から永遠に失われてしまいます。
それとは気づかず種を採り続けている一人の農民の肩に、
種の存続がかかっている、そんな可能性だってじゅうぶんにあるのです。

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官能的な配色の紅しぼり。主に煮豆で食べられているそうです。
パンダみたいな模様のもの、虎模様、うずらの卵みたいなもの等々、
豆っていろんな模様のものがあります。どうしてこんな模様になったのか…見てるだけで飽きません。



今日、在来品種が付加価値商品としてブランド化されていますが、
これも、名もない農民たちが長年にわたって種を採り続けた結果です。
そう考えると、ちゃらっと食べたりしないで大切にいただかなくてはとか思っちゃいます。

在来種・固定種にはそれぞれに物語があります。長い長い、時を渡る旅の物語です。

私たちの子孫、またその次の世代まで、彼らがその旅を続けられるよう、
農民は種を採り、種をまき、生命をつないでいるのです。


※黒千石大豆、20粒ずつ3名様にお分けできます。
もし自分の畑で作って種を採ってみたいって方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください。
先着順でお送りいたします。コメント欄でお申込みくださいませ(ちょびっとしかお分けできなくてすみません)。
(住所等お知らせいただきたいので、鍵コメントでお願いいたします)


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こんばんは

なるほど、在来種でこれだけの種類のあるものってほかにないんですか。営利目的でないからこそなんでしょうかね。
経済力学的にいえばとっくに淘汰されてしまっていそうな品種同士が同時並行的に存在しうるのって、とっても豊かな食文化だなーと。女性の力が大きい、ふむ、さもありなん。男にはたぶんムリでしょう。

おととしのこと、だだ茶豆が手に入ったんで、楽しみに栽培しました。プランター栽培ですが。収穫したその豆のおいしかったこと。だだ茶豆ってこんなにおいしいんだ!って。味をしめて去年もと思ったのになぜかどこにも売ってませんでした。残念だったな。今年はまた挑戦してみようかな。ビールとほんとよく合うんですよねー v-275

余談ですが去年の秋、「自遊人」とかいう雑誌で在来種のそばの特集組んでましたね。「妙高こそば」が食べてみたくてしょうがないんですが、出してくれるお店が練馬にあるそうで。まだ未体験なんですが。これ読んで「在来種」関連に関心持ちましたです。

ではでは

Re: こんばんは

Fuさん

こんばんは。

> おととしのこと、だだ茶豆が手に入ったんで、楽しみに栽培しました。

だだちゃ豆って、関東ではなかなかうまく作れないって皆言うんですが、
うまいことできたんですね。スゴイですね~。さすが緑の指。

ちびっちゃい黒豆を植え付けても、うまくできないかもな~と思ってます。
北海道と東京では天候が違いすぎるし…難しそうです。

> 妙高こそば」が食べてみたくてしょうがないんですが、

妙高って長野のへんにある地名ですよね~。
りんご農家に聞いてみよう、何か知ってるかも。

在来種、面白いですよね~。

日本には、なす・アブラナ科の在来種がたくさんあるみたいです。
とくにナス。西へ行くほど長くなり、北へ行くほど小さくなるんです。
なぜだろう…? いつかちゃんと調べてみたいです。

No title

たいへんお久しぶりです。
だだちゃ豆は茶マメのなかの「だだ」(≒おいしい、の方言?!)と
かってに自分で意味を作っていました。
こんな由来があったのですね。おもしろいですねー。
きっと一つ一つの野菜にいろんなドラマがあるんですね。
自家野菜を大地を守る会の「とくたろうさん」でいただいていますが
主婦の仕事だったとは!(「とくたろうさん」は男性ですが)
目からうろこの話がいっぱいです。ありがとうございます。
今在来種に注目が集まるのは、効率優先の世の中への疑問を感じる人が多いからでしょう。なんだか最近の世の中は効率優先の強い流れとその抵抗の二つの流れにわかれている気がしていましたが、大震災でまた流れが変わっていくのでしょうか。



Re: No title

nabanaさん

こんにちは。お久しぶりです。

> きっと一つ一つの野菜にいろんなドラマがあるんですね。

いろいろあるんで面白いですよ。

> 自家野菜を大地を守る会の「とくたろうさん」でいただいていますが

おいしくないってクレームが来たのでとくたろうさんでは一度しか扱わなかったのですが、
青森の農家が作っているむかーしのとうもろこしがありました。

その農家が作るのをやめたらそのとうもろこしは世の中から無くなるので、
誰も食べないけど種を絶滅させたくないから、未来の誰かのために作り続けているって言ってました。

おいしければ作る甲斐もあるんでしょうが、自分ちでも食べないそのとうもろこしのために、
毎年畑を割いてるので、エライなあ…と思ったです。

こういうことって、効率とか生産性とか費用対効果とか言ってたら、絶対に無理なこと。
農業は命をはぐくむ仕事なので、効率一辺倒ではどこかにひずみが生じます。

在来品種のことをよく知らなくても、効率の対極にあることはなんとなく想像できるので、
そこが人々の心にヒットしてるんじゃないでしょうかしらと思います。

No title

ほんたべさん、こんばんわー。アップで見ると、まるで卵のようにきれいなマメですね。
女性の人のお仕事だったとは思っていませんでした。まぁ、男性はどうもこういうのは苦手というか、面倒というか・・・

>真珠豆。
おおー。どんなマメなのか楽しみです♪真珠のように輝いているのでしょうかね?ワクワクします。

Re: No title

駆動さん

そちらは在来種天国というか、いろんなものがありますよね!
それらはやっぱり農家のかあちゃんが選抜してきたもののようです。
だだちゃ豆のおいしい系統を出した地区っていうのもあって、そこでもかあちゃんが種採りしてたそうです。

男の人には忍耐力がないので、ちまちました作業ができないのだと江頭さんも言いきってました。
何人もの人から似たような話を聞きますから、男の人には難しいんでしょうねえ…。

真珠豆、まだ来ないのです(泣)。忘れちゃったのかも~。
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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