「桃の精」との思い出―山梨県・久津間範彦さん

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日川から始まり、白鳳→長沢→一宮→浅間→浅間2号→川中島→晩生の桃いろいろ。
桃という果物はいろんな品種が約1週間ずつ出荷され、7月上旬から9月上旬まで店頭に並びます。
山梨の果樹農家は、すもも・桃・ぶどうを組み合わせて栽培していることが多いのですが
桃の品種を早生品種から晩生品種まで作っている人はほとんどいないのでした。



出荷時期が読めない、それぞれの品種のピークが一週間、採り始めると待ったなし。
在庫もできないから、絶対に売り切らなければならない作物「桃」。
シーズン開始時には「そろそろ桃が始まるぞ~」と皆が気合いを入れる商品「桃」。

見た目の色合いのかわいらしさや、うっとりする香りに似合わず
触るとそこが茶色く傷み、落っことしたりするとたちまち商品にならなくなり、
低農薬栽培の場合、とくに流通途中に病気が発生してカビだらけになることもあり、
消費者からチョー怒りの電話がかかってくる商品「桃」。

2000年、私が落葉果樹担当になって初めて担当した作物が、桃でした。
そして桃の生産者、山梨県の久津間さんの担当になりました。

「女に産地担当なんかできるわけない」と言われ、最初は会ってももらえなかった私。

しかし、鈍くてガサツな性格が幸いし、そういうことに気づかず、さらに気にせず、
山梨弁の勘違いもあって、否定されていることも全く知らず、
(「しちょし」を「しろ」と翻訳したです。実は「するな」という意味でありました)
粛々と仕事をし、言いたいことが言えるようになった3年目。

なんだか知らないうちに評価が上がり、かわいがられていることに気づきました。
そして、退社してからも遊びに行っては、いろんな話を聞くようになりました。
山梨県にお父さんがもう一人できたような感じでした。

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除袋の頃、忙しくなって少しスマートになってる久津間範彦さん。
「ちゃんと予定通り出荷できるよう、桃の樹によ~く言い聞かせといたから」
出荷予定が組めず毎年全く予定が立たないので「なんとかして」と言うと、いつもこう言われました。
もちろん予定通りは絶対出てこないのですが、久津間さんが言うと出るような気がしちゃって。
会議でこんな報告すると「何言ってんだ」って言われるんですけどね~。



桃が大好きで、桃以外の作物を作っていない久津間さんは、
大地を守る会の産地担当の中で「桃の精」とあだ名されていました。

久津間さんの桃畑に行くと、木と木の間がとても広く取られていて、
枝はお日様を存分に浴びられるように広がり、風通しよく作られています。

適度についた桃の実は、お日様をいっぱいに浴びた葉で光合成された養分が蓄積され、
樹のてっぺんも、下枝の先も同じようにおいしい…久津間さんの桃はそんな桃でした。

桃農家は皆知っていて、食べる人はあまり知らないことですが、
桃は一本の樹の中でできる果実の味の個体差が、非常に大きな果物です。

木のてっぺんのものはおいしいけど、日陰のものは糖度が乗らずおいしくない。
そもそもがそういった作物なのを、いかにしてバランスよく全てをおいしく作るか、
それが、桃農家の腕の見せ所であり、彼にしかできないことでもありました。

さらに、一般栽培の約3分の1の農薬で桃を作る技術力。そのうえで、
「おいしいものを作るのが百姓の仕事なんだから、おいしくないものを作ってちゃダメ。
百姓は、いいものを作ってこそ百姓」と言い切る自信。

まさに「桃の精」でないと出来ない仕事でした。

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草生栽培の桃畑は、風が通るととても気持ちのよい畑。桃の樹もきっと同じでしょう。
桃に対する愛情が畑や樹の形から感じられ、言葉のはしばしからも伝わって来ました。
やっぱ「桃の精」の言うことは違うな!と、何度も何度も思ったです。



久津間さんのお父さんは、一宮町でもかなり最初に桃を導入した農家でした。
養蚕がメインだった当時、桃に切り替えるとは、かなり先見の明があったのでしょう。

その血を引いた久津間さんご本人は、低農薬栽培への切り替えがかなり早く、
「安心・安全」と言われる前に、すでに低農薬栽培の技術を身につけていた人でした。
やはり先見の明があったのでしょう。地域での低農薬栽培の牽引役でもありました。

農薬取締法が改正された後、一般農家が、決められた農薬をきちんとまいたり、
履歴を農協に報告することができないと騒いでいたとき、
「今頃何を言ってるだ」と笑っていました。「そんなのは普通に出来なきゃダメだ」と。

私は久津間さんに、桃のことだけではなく、いろんなことを教わりました。

結果、桃の農家と桃の話を普通にできる知識(桃農家にとってはイヤ~な知識)を、
久津間さんとの雑談の中で身につけ、流通にウソをつく農家を論破する、
大変嫌がられる産地担当になれたのでした。

桃の花10
お亡くなりになった日は桃の花がちょうど満開。花粉採りを終えての、不慮の事故でした。
桃の花が咲き誇るなか、「桃の精」は逝ってしまったのでした。



4月16日、久津間範彦さんはお亡くなりになりました。

もう桃の樹の下で桃の話を聞くことはできません。
お花見で飲んだくれることも、こたつに入って話しながらうひゃうひゃ笑うことも、
おっきなあったかい手で握手されることも、ないのでした。

約10年間、短い期間でしたが、久津間さんという人の人生に関われたこと。
幸せだったと思います。
本当にありがとうございました。

「安心して食べられるもの」がますます難しくなるかもしれないこれからだけど、
久津間さんに教えていただいたことを忘れないよう、
私もそれを誰かにつなげられるよう、生きて行きます。

御冥福をお祈りいたします。



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No title

ほんたべさん、こんばんわ。まずはご冥福をお祈りいたします。

桃畑の写真。とても美しいですね。桃の精さんのココロを感じます。
ほんたべさんが、これからも伝えてゆくことを願って。

No title

こんばんは。
なんと申し上げてよいやら、

お写真で拝見するかぎり、
「いるよなーこういうオヤジ。やたらとウデの力とか強いの」
なんて思いながら読み進めてました。

ほんたべさん、いろんな貴重な出会いをされてるんですね。

この方はほんとに「桃の精」になられたんじゃないでしょか。
ただただ、ご冥福をお祈りいたします。

Re: No title

駆動さん

ありがとうございます。

大地を守る会の「顔」でもある生産者さんでした。
桃の花が満開で、桃の花に送られたんだなあ…と思ったです。

Re: No title

Fuさん

「桃の精」と言うには少し強面だったかも(笑)
シャイなところもあって、ユーモアのセンスのある優しい人でした。

本当に桃の精になってしまったんでしょうね。
これから桃の花を見るたびに思い出すんだろうなあ。
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Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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