「有機農業」という暮らし方―埼玉県・金子美登さん

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さつまいもの苗採りを初めて見ました。種も苗も自給している霧里農場です。
踏床温床の上に土を入れ、モミガラ燻炭を乗せてあります。



埼玉県小川町。

昭和の時代、農家経営としては米麦養蚕が主だった中山間地ですが、
今この町は「有機の町」として知られています。

その牽引役となったのが、金子美登さん。

約40年前から有機農業に取り組み、現在は
全国有機推進連絡協議会の理事長も務めていらっしゃいます。

金子さんの農場、霧里農場でその「有機農業的暮らし」を見学してきました。

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地元の木材とガラスで作ったガラス温室。木材には柿渋が塗られていて、最低40年はもつとか。
2年で更新しなくてはならないビニールのことを考えると、環境負荷が低くていいですね。


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日本短角種の「みらい」ちゃん。牛乳も自給しています。
みらいちゃんは一日一升瓶2本くらい牛乳を出してくれるので、一本は子牛に、一本は人間に。
みらいちゃんの他に2頭の牛&子牛が1頭。子牛ちゃんは2年後に食べる予定。肉も自給なのでした。



昨今の有機JAS認証しか知らない人にはピンとこないかもしれませんが、
過去「有機農業」とは、自分の暮らし方や生き方含め「思想」と受け止められていました。

有機農業は実は「思想」なのですね。

循環、持続可能、環境保護…そういう視点なくては有機農業を語る資格はない的な、
ちょっと狭くて人を寄りつかせない感じの時代が、確かにあったのでした。

例えば、有機の野菜を食べながら合成洗剤を使ってはいけない的な感じ。
もちろん味の素やファストフードなども有機的には「ダメ」な品目。
化学調味料・添加物・化粧品など、それぞれにこだわりがありました。

わたくしは現在せっけん生活をしておりますが、それは某D社に入社して以来、
「有機的生活の思想」のシャワーを浴びたからに他なりません。

化学物質や環境汚染物質をできるだけ使わず、未来の子どもたちに
今のままの地球を残そう…こういう言葉、最近あまり聞かなくなりましたね。
もうそういった時代じゃないってことでしょうか。

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しいたけのホダ木かと思ったら薪ボイラーの燃料でした。自分の山から採って来ます。

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薪を燃やすボイラー。上部でお湯が沸いています。約60℃位でした。
母屋を建て替えた際にこういった自然エネルギーを使える形にしたそうです。
灰はカリ肥料になります。いいなあ、カリの自給。



さてしかし、金子さんの暮らしはまさに「有機農業的暮らし」でありました。

まず注目すべきはエネルギーの自給。ほぼ完遂できています。

電力は太陽光パネルから。
足りない場合は買うこともありますが、多い場合は売電もしています。

さらに、お湯を沸かすのは薪。薪は自分の山の間伐材を利用します。
このお湯は常時60度以上なので、冬は床暖房に。もちろんお風呂のお湯にも使います。

植物の残さ・牛や鳥の糞を発酵させて生まれるメタンガスは
家族5人分の台所の火の素になり、上澄み液は植物の液肥として利用します。

きわめつけがSVO(ストレート・ベジタブル・オイル)。
お豆腐屋さんで使った揚げ油の廃油でディーゼル燃料を作っているのです。

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まず大雑把に濾過というか固形物を取り除き、油をタンクに溜めます。

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遠心分離機でタンクに溜まった油を濾過します。約70時間ほどかかるそうです。
何が何だかわかんないでしょうが、濾過しているところの写真っす。
遠心分離機を稼働させてる電力は、太陽光発電から。家庭で使う電力と系統を分けています。


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左・お豆腐屋さんから来たばっかのナタネ油。右・濾過後の燃料となったナタネ油。
色がきれいになってますね~。ビンが汚れてるのできれいさが伝わりづらいですけど。



廃食油ディーゼル燃料と言えばVDF(ベジタブル・ディーゼル・フューエル)が有名ですが、
これは廃食油に化学薬品を調合して作る燃料。
以前私が霧里農場を訪問した際には金子さんはVDFを利用していました。

VDFも素晴らしい技術なのですが、車が故障したりうまく動かなかったりもして、
汎用性にいまいち欠けることと、製造過程で化学物質を利用することなどもあり、
金子さんは5年ほど前にSVOに切り替えました。

SVOは単に廃食油を時間をかけてろ過して燃料にするもの。

不純物がないせいか、車も農業器具も全く故障なし。
車に装置が乗っけられるかどうかがミソなのですが(最新鋭の日本車はちょっと難しい)
付けられれば、ガソリンを全く使わず、トラクター・コンバイン・自家用車が
廃食油で動くのでした。

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見る人が見ればわかるのでしょうか。乗用車メルセデスのエンジン部分。
SVOを使えるようにするための装置が搭載されています。オバハンには全くわかりません。
燃料があったまるまでに時間がかかるので、熱交換器が必要らしいです(その辺もさっぱり??)。



限りある資源である化石燃料を全く使わない新しい燃料。
自治体によって規制があるらしいのですが、今後注目されるんじゃないでしょうかしら。

混植の畑ではコンパニオンプランツやバンカープランツなどのIPMの技術が応用され、
化学物質を使う場面はほとんどありません。

牛がのんびり草を食み、鶏は畑の残さを食べ、それらの糞を肥料にし野菜を育てる。
循環型で自給自足の夢のような暮らし。日本では昔これを有畜複合農業と呼びました。

世間の荒波と現実にもまれ、すっかり忘れ去っていた20代のころの自分、
「こんな農場で自給自足で暮らしたいと思ってた若い娘」だった自分を思い出し、
胸がきゅんとなりつつも、今や40代後半のオバハンであるわたくし。
オバハンの目には、この生活を実現することの厳しさも同時に見えてしまいます。

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まるで家庭菜園のような作付けの農場。基本は少量多品目で混植栽培です。
こういう栽培方法って、いろんなものが植わってるので管理が大変。効率が悪いのです。
っていうのが、まっすぐにモノが見られないオバハンの感想でした。


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適地適作・自家採種、有機農業の基本です。小川町には在来の大豆があるそうで、
昨年のように大豆には最悪の条件の年でも、その「小川青山在来」だけは収量が変わらなかったとか。
地豆の強さを感じますねえ。本庄あたりでも「借金なし」と在来品種は収量が良かったそうです。

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金子美登さん。有機農業の牽引役としての威厳よりも「いい人だなあ」的な印象が強い方。
「米麦養蚕の時代に金子家では反物の織り手が二人いたから、すごく儲かった。
今ウチの周りに畑があるのは、祖父がその時代に近隣の畑を買ったから。
おかげで移動が少なくて便利なんだよ」 お祖父さまも先見の明があったのですねえ。



金子さんの農業の形は私の理想とする「高品質多収の有機農業」とは少し違います。
金子さんの野菜を食べている人は、金子さんの思想も一緒に食べているのでしょう。
それはでも、小川町を有機の町にした原動力でもあったのです。

金子さんの農場から巣立った新規就農者は、小川町で30組以上就農しています。
その結果、耕作放棄地が14ヘクタールに減りました。
まさに、有機農業が町を活性化したのでした。

単に食べものを作るだけじゃない有機農業の思想と役割、
そしてその広がりを感じることができる霧里農場。

有機農業に関わって20年のわたくしですが、娘時代の理想を思い出し、
なんかちょびっと感動してしまいましたです。


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No title

こんにちは!

埼玉県小川町ですか。
小川カントリークラブに通っていたバブルの頃を思い出します。
ゴルフ場ってすごい量の農薬を使用するんですよね!
今でもたまに行くので気をつけなくては・・・

ところで、金子さんのライフスタイルにはあこがれますネ。
ここまでくるには並大抵のことではなかったとは思いますが、土地と密着した人間らしい生活好きです。
将来私も自給自足にチャレンジしてみようかな。
根がカントリーボーイなので・・・

私の亡き祖父は瀬戸内海に浮かぶ島でみかん農家をしておりましたので、土地の確保は問題なし。
そこでは最近まで農地を近所の農家に貸していたので、今でも無農薬の熟したみかんを収穫することができます。
収穫したみかんは車のトランクにそのまま放り込んで横浜まで持って帰り配布。
外観は良くないですが、味は最高ですネ。

最後に、ほんたべさん40代後半って本当ですか?
プロフィールの写真等で30台もしかしたら20台後半と思っておりました。
知らなければ良かったかな~(冗談)

No title

こんにちは。
前の記事からの連投失礼いたします。

金子さんについて、毎日新聞で10回の連続記事が載ってましたね。「時代を駆ける」ってやつです。
じっくり読んじゃいましたよ。
そんなところにタイムリーにこのほんたべさんのブログ記事。とっても興味深かったです。

ひと口に有機農業って言っても、ここまで生半可じゃないご苦労があったんじゃないかなと推察いたします。
でも、金子さんはなんでも楽しそうにやられてることが素晴らしいですね。

エネルギーの話にしてもそうですが、これからどうしたって好き嫌いはともかく循環型の社会を構築してかなきゃなんないうえで時代の先を行ってたんだなってことが最近のこんな状況になってよりクローズアップされるでしょうね(なんか通りいっぺんなコメントになってしまった。すんません)。

>循環型で自給自足の夢のような暮らし

これからは、これでしょう。どうやったらこれに少しでも近づけるか。
いろんなシガラミがあって難しいけど、究極の目標にいたします。

夢があれば、十代の小娘だろうがオバハンだろうがそんなこと関係ないっす。(←なんてちとクサイこと言ってみた。でも本気ですっ!)。

ではでは

Re: No title

ポポカさん

こんばんは~。

> ゴルフ場ってすごい量の農薬を使用するんですよね!

昔はすごい農薬使ってたらしいですが、最近はそうでもないと聞きました。
なんか生物農薬系とか使ってるらしいですよ~。

大地を守る会時代はゴルフ場の農薬にも反対してたので、
社員でゴルフする人間がいないという、変な会社でしたです。
久しぶりに思い出しました。

> そこでは最近まで農地を近所の農家に貸していたので、今でも無農薬の熟したみかんを収穫することができます。

おお!いいですね!!!

瀬戸内海側、鳥取出身の自分としては「あったかくて雪が降らないステキなところ」って印象です。
みかんも大好き!
ぜひ自給自足生活してください。
収穫のお手伝いに行かせていただきます(笑)

> プロフィールの写真等で30台もしかしたら20台後半と思っておりました。

ええっ! そんなに若く見えましたか!!!
 
あの写真良く撮れてて、元同僚にも「何歳の頃の写真使ったんだ」とか言われます。
自分ではわかんないんですが…。

でもあれ、一年半前にカメラマンに撮ってもらった写真なんですよ~。
カメラマンの腕が良かったんですね。
ありがとう、鈴木カメラマン!

Re: No title

Fuさん

コメント続けてありがとうございます(笑)

> 金子さんについて、毎日新聞で10回の連続記事が載ってましたね。「時代を駆ける」ってやつです。

私も「有機広がるネット」ってので見ました。
興味深かったです。

エネルギー自給ってできるんだ!ってことを普段の暮らしで証明されてるので、
これからは農業という分野だけじゃなくて、注目されていくんじゃないでしょうか。

メタンガスなんてのは一般家庭ではできないと思うけど、何かのヒントにはなりそうですもんね。


> いろんなシガラミがあって難しいけど、究極の目標にいたします。

おおっ!そうですか!
がんばってください!

わたくしも田舎に引っ越して、牛は無理だから鶏飼って、畑耕して…と幾度となく思ったのですが、
もうちょっと年取ったらかな~と最近あきらめにも似た心境になってきました。
でも条件をいろいろ考えちゃうので、無理かもなとも思います。

やっぱり一年中耕作できるところで、水があって、田んぼもあって、雪が降らないとことか、
いろんな余計な知恵がついてるので、素直に飛び込めなくなってる感が大きいです(泣)
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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