環境保全型農業のための「IPM」の話

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アブラナ科の隣にセリ科の植物を植え付けると、コナガやモンシロチョウなどが寄って来ません。
コンパニオンプランツと呼ばれるこの技術はIPMのひとつ。有機農家では割合と行われています。
写真は埼玉の金子さんの農場で見た混植。レタスはキク科。これは効果あるんだろうか…?



わたくしがIPMという言葉を初めて聞いたのは、2000年のことでした。

当時まだ某D社から野菜を仕入れていた某R社主催の技術研修会。
夜の飲み会の席で、当時のR社の仕入部長が飲んだくれ、
「これからはIPMなんだよお~。あい、ぴい、えむぅ~」と何度も叫んでおられました。
彼はヨーロッパでIPMの現状を視察してきたばっかりだったのでした。

「あいぴーえむ?」農業のど素人であったわたくしには未知の言葉。
その2年後、天敵の研修会でIPMの概念を知ることになりました。

IPMは「Integrated Pest Management」の略で、「総合的病害虫管理」と呼ばれます。
農水省では「総合的病害虫・雑草管理」と言われています。

「人の健康に対するリスクと環境への負荷を軽減あるいは最小限にし、
環境保全を重視したものに転換することにより、
消費者に支持される食料供給を実現すること、
と位置付けられている(農林水産省による)」(ウィキペディア・総合的病害虫管理より)

うーん、全然わからん。

画像9
天敵昆虫を積極的に利用するのもIPM。天敵の発生時期に農薬を使わない・
絶滅系ではなく選択性の高い農薬を使うなど、天敵を殺さない防除体系を組むことにより、
慣行栽培でも天敵利用が可能になります。写真はアザミウマを食べてくれるヒメハナカメムシ。



別の言葉で言うと「化学農薬をできるだけ用いず、
きちんと農家経営が成り立つレベルの農産物を栽培するための理論」
とでも言えばわかりやすいかも。

「化学農薬をできるだけ用いず」と「農家経営が成り立つレベル」というのが
キモなのでございます。
有機農業でも導入できるけど、どちらかと言うと慣行栽培の人向けの理論です。

では、「環境保全型農業」ってよく聞くけど、イメージはわかるけど、
いったいどういう農業なのでしょう。

環境を汚染しないことはもとより、さらには環境を改善し、
安全・安心・良質な農産物を供給する農業のこと。だそうです。

現在の農薬や化学肥料の多投が前提の農業は違うってことですね。

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りんご畑のダーズバン散布風景。有機リン系農薬なので、そこにいる虫は全部殺します。
天敵も害虫も皆殺し。その他除草剤や殺菌剤でも微生物や小さな昆虫は死んでしまいますから、
農薬が環境に与えるダメージはかなり大きいのです。



自然と寄り添うイメージの強い農業ですが、実は農業による環境汚染はかなりなもの。
過剰な施肥による水質汚染や、農薬による昆虫などの種の減少など、
生態系に与える影響はかなり高いと考えられています。

我々は環境を破壊しながら食糧を得ているとも言えるわけでございます。

そんななか、今ある環境を利用し、さらに予防と観察を主軸におき、
できるだけ化学的な方法を使わないための理論がIPM。
環境保全しながら持続可能な農業を営むことができるのです。

さて、IPMの基本要素としては、以下の3つの段階が挙げられます。

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メスのフェロモンを拡散させオスがメスに出会えなくして害虫の密度を下げるフェロモン剤。
果樹類の殺虫剤を減らすのに使用されます。町ぐるみで取り組まないと意味がなかったりするし、
一本あたりがちょっとお高く、圃場一枚で大量に購入しなくてはならないので、そのあたりが難点。


① 予防 
有機農業では昔から言われている適地適作や輪作、
また土地に合った品種改良(抵抗性作物及び遺伝子組み換えなど)、
その他、土壌分析診断に基づく施肥設計などにより、
病害虫の発生しやすい環境を作らないための方法。
(GM作物もIPMの一部なんですよ。ちょっとびっくり)

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自家採種、GM作物、耐病性種子、接木苗などはすべて予防に含まれます。
土壌分析診断も適正な施肥管理による病害虫の多発を防ぐという意味での予防なのですね。


② 観察
該当する地域にどのような虫が発生するか(地域別の予察)、
圃場状況の確認など、具体的防除の実施を行うための判断材料。

③ 実施
具体的・直接的な防除方法。
具体的防除とは、耕種(土地に合う作物の選択)・物理的防除(寒冷紗・粘着板など)、
生物的防除(天敵の活用)、化学的防除(農薬等)の3つに分類されます。
※農水省のIPMでは、定植時の粒剤の植穴使用などは
「予防」に含まれているが、欧米では「実施」に含まれている。

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ハーブのひとつ「ボリジ」は天敵の住処になることが知られています。天敵に食べものが無くなった際に
こういった養成作物があると天敵が生き延びることができます。畑のすみっこにハーブを植えると
いいってことですね。ハーブ類や採蜜植物などがいいようです。

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物理的防除「寒冷紗」とネギ類ときゅうりの混植(コンパニオンプランツ)の例。
混植は管理の手間がかかって大変!なのですが、自然農などではよく利用されています。



なんかこういう具合に書くと、非常に難解なもののようですが、
有機農家であればだいたい上記のどれかは導入しているもの。

簡単に言うと、「予防して、それでも病害虫が出たらそれをよく観察して、具体的に防除しましょう。
具体的な防除でも、化学農薬をできるだけ使わない方法でやりましょう」てな感じでしょうか。

昨今では、慣行栽培の施設園芸で天敵農薬の利用が一般的になり、
IPMについて、理論は明確でなくとも「なんとなくこういうもの」という
知識を持っている人が増えてきています。

しかしほとんどの農家は高齢化も相まって「IPM?なんじゃそりゃ」って感じ。
農薬多投の農業からの脱却は、まだまだ難しいようですね。ふう。

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春先にソルゴーや麦などが畑の周りにあると、そこでムギクビレアブラムシが発生します。
このアブラムシはナスやいちごなどには害を及ぼさないアブラムシ。
これを食べにヒメテントウやアブラバチ類が飛来し、そこで増殖します。
天敵類が増えたところで本作物であるナスにモモアカアブラムシなどが発生。麦で増えた天敵が、
ナスなどについたアブラムシを食べてくれるというしくみ。「バンカープランツ」と言います。



2002年のデータしかないのですが、
おそらく現在単位面積当たりの農薬使用量は日本が一位。
二位が韓国、三位たぶん中国といった状況です。
実は、極東の三国が農薬を使いまくっているのです。

日本は先進国なのに、民度が低いわけじゃないのに、なぜ農薬を使いまくるのか。
農家がまじめだからか、消費者が虫食いを許さないからか。

一枚あたりの畑が1ヘクタールとかいう広大な面積で農業を行っている欧米と、
一枚10アールとかいう中山間地農業の日本を単純に比較してはいけませんが、
そろそろ農薬漬けの農業を真剣に見直す時期が来ているように思います。

EUでは、有機リン系、カーバメイト系農薬などの
安全評価の見直しが検討されているとのこと。
アメリカでも同様の取り組みが起きつつあるとも聞きました。

安くてよく効く環境負荷の高い人間にも危険な農薬を使うのは、
知らない間に日本と発展途上国だけになってた…なんてことになりそうです。

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ほんたべ農園のきゅうりくんたち。これを出荷したら全部規格外品になりますよ。
日本の商社が海外に作付けている作物は、一律の規格を求めるために大量の農薬を使わせます。
日本の食べもののためによその国の環境を汚染しているということを、私たちは知らねばなりません。



だからと言って今日から慣行栽培から有機農業に切り替えます!なんてことは
経営上も、技術上も、かなり無茶なことではあります。

であれば、IPMの理論を導入した減農薬栽培をステップ1にして
無理なく農薬を減らして徐々に有機に近づいていく…
みたいな取り組みが、JAとかが率先してできるといいんですけどね。

まあ、それ以前に、食べる人たちの意識改革が先かもしれません。

放射能は当然NO! ついでに農薬もできるだけNO!
多少虫が食ってても、野菜がちょっと高くてもOK! 

そんな人がもっともっと増えないかなあ。
わたくし的には、上記プラス「おいしくない野菜はNO!」でございます。


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No title

いつもブログ読ませていただいてます。
かってにリンクして申し訳ないです。
いつも読みたかったものでリンクしてました。

私は無肥料無農薬でがんばっている兼業農家です。
畑は栽培方は少しちがいますが
今年から色々と取り組んでます。

No title

ほんたべさん、こんばんわ「IPM」。初めて知りました。「IBM」とは違うのですね。(←そりゃパソコン会社だ。)

>簡単に言うと、「予防して、それでも病害虫が出たらそれをよく観察して、具体的に防除しましょう。
>具体的な防除でも、化学農薬をできるだけ使わない方法でやりましょう」てな感じでしょうか。

なるほど。言われてみると、当たり前な気がします。
お金を出して高い農薬を撒くよりは、コンパニオンプランツとかバンカープランツを育てたほうが、安くなる気がしますね。食べなくても、最後は土に還りますし。

こういう言葉がもっと広まって、農家のおじいちゃんたちから「おらほじゃ、IPMさやってるべ。」とか当たり前に聞ける日が・・・来てほしいなぁ。

Re: No title

くーたろう2号さん

リンク、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。
>
> 私は無肥料無農薬でがんばっている兼業農家です。

くーたろうさんは兼業農家だったのですね。
時折訪問させていただいておりました。

広い畑があっていいですね。田んぼもやりがいがありそうです。
自然栽培、がんばってください。

Re: No title

駆動さん

こんばんは。

> お金を出して高い農薬を撒くよりは、コンパニオンプランツとかバンカープランツを育てたほうが、安くなる気がしますね。食べなくても、最後は土に還りますし。

そうなんですよ。農薬って高いんですよね~。
防除暦どおりにまいてると結構な金額になるらしいですよ。
年間40万とか50万とか(面積にもよるでしょうが)

埼玉の慣行栽培の農家が、天敵の研究者のアドバイスを受けて、
農薬が防除暦の1/3程度に減ったって言ってましたから、IPMって効果があるんです。
経費的に安上がりだとわかれば、取り組む人も増えそうなんだけどな。
>
> 農家のおじいちゃんたちから「おらほじゃ、IPMさやってるべ。」

かっこいいっすね!こんなじいちゃんがいたら!

でも農家のじいちゃん、農薬の名前も間違って覚えたりしてるからなあ。

今までで一番笑ったのは「DDVP」って農薬を「デデブイピ」って書いてきたじいさん。
音は合ってるんですが。カタカナじゃないからDDVP。
あと「サンマイトフロアブル」を「3枚とフロアブル」と発音したおじさん。

かな~り笑えました(爆笑)
プロフィール

ほんたべ

Author:ほんたべ
手島奈緒
おいしい食べものをつくる人を紹介したり応援したりしております。ブログをまとめた著書『いでんしくみかえさくもつのないせいかつ』(雷鳥社)『まだまだあった! 知らずに食べてる体を壊す食品』(アスコム)『儲かる「西出式」農法』(さくら舎)など。現在ハンター修行中。

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